2025/01/31
法務情報
【徹底解説】相続放棄した家の管理義務はどうなる?
新潟事務所、長岡事務所、上越事務所、燕三条事務所、新発田事務所、長野事務所、松本事務所、高崎事務所
相続放棄をすると、遺産相続から解放される一方で、相続放棄をした場合であっても相続財産である「家」の管理・保存する義務が発生する可能性があることをご存知でしょうか。
令和 5 年度人口動態統計年計によると、日本人口の死亡数は 157 万人を超え、年々上昇傾向にあります※1。また、令和5年度の司法統計年報によると、相続放棄の受理件数は282,785件となっています※2。このような数値より、死亡数に比して相当数の相続放棄の申立てがなされていることがわかります。
多数の相続放棄がなされる中で、「離れて暮らしている実家の両親が亡くなり、急に相続をすることになったが実家に住むつもりはないので土地も家もいらない」「面倒な相続に関与したくないから、相続放棄をしたい」という悩みを抱えている方も少なくないと思います。
本記事では、相続放棄にまつわるケースにおいて、相続放棄をした家が空き家になった場合はどうなるのか、相続放棄した家の対処法について解説します。
また、相続が発生してから慌てることがないように、相続とは何か、相続放棄後の家に関することまで、時系列に沿ってわかりやすく説明します。
※1 令和5年(2023)人口動態統計(確定数)の概況 第2表ー1 人口動態総覧の年次推移:厚生労働省
※2 令和5年司法統計年報 第2表 家事審判・調停事件の事件別新受件数ー全家庭裁判所:最高裁判所
基礎知識―相続とは?
相続とは、ある人が死亡した場合に、その亡くなった人(以下「被相続人」といいます。)が所有していたすべての財産や権利・義務といった遺産を、配偶者や子どもなどの一定の身分関係にある人(以下「相続人」といいます。)が受け継ぐことです。
遺産には現金、不動産、株式などが含まれるのが一般的で、プラスの財産のみならずマイナスの財産(ローン返済金や借金などの負債)も含まれます。
相続人が複数いる場合(共同相続)には、相続人間で相続財産の取り分けを行い、これを遺産分割といいます。
相続開始時の選択肢
相続が発生すると、相続人は、自己のために相続が発生したことを知ったときから 3カ月以内に「相続放棄」や、「限定承認」をするか否か考える必要があります。この期間を熟慮期間といいます。
相続放棄や限定承認をしない場合は、相続を「単純承認」することになります。
以下、それぞれの用語について説明します。
単純承認は、すべての遺産を無条件で引き継ぐ選択肢です。この方法を選ぶと、プラスの財産だけでなく、被相続人が負っていたマイナスの財産もすべて相続されます。
一方、限定承認は、一定の条件を満たした場合、相続するプラスの財産の範囲内でのみマイナスの財産を引き継ぐ方法です。手続は複雑になるものの、マイナスの財産が大きい場合にも遺産の範囲を超えて相続人がマイナス分を負担することはありません。
そして、相続放棄は、遺産のすべてを放棄することです。例えば、被相続人の遺産に借金などの大きなマイナスの財産が含まれる場合、相続人は相続放棄をすることで、借金を代わりに払わなくてよくなります。
相続放棄の判断基準
どのようなケースに相続放棄を選択すべきかをより詳しく見ていきましょう。
例えば、被相続人が残した遺産に価値のある物件や資産が含まれる場合は、経済的に見れば相続放棄をする必要性が低いといえます。しかし、遺産に含まれる借金や負債がプラスの財産を上回る場合は、相続放棄を検討する必要があります。
そればかりでなく、遺産に老朽化した家屋が含まれる場合にも、その維持管理の負担との均衡を考え相続放棄を検討することとなります。
相続放棄の判断基準として、自分や家族がその遺産を管理する能力、意欲、現実的な可能性があるかがあります。
例えば、遠方の物件が含まれる場合、物件の管理が困難となるため、相続放棄を選択する場合もあります。
仮に相続放棄をせずに、相続した空き家をそのまま放置した場合、固定資産税や保険料などの管理費用が継続的に生じることにもなりますし、場合によっては、空き家の倒壊等により権利者である相続人が予期せぬ責任を負うことにもなりかねません。
相続放棄をする方法
実際に相続放棄をするにはどうすればよいでしょうか。
相続放棄を行うためには、家庭裁判所で手続を行う必要があります。
具体的には、まず相続放棄に関する申立書を作成し、必要書類とともに裁判所へ提出します。
裁判所に書類を提出する際は、前述の熟慮期間(相続の開始を知ったときから3カ月以内)に注意が必要です。
相続放棄に関する申立書等が家庭裁判所に受理されると、相続放棄の手続が完了します。
相続放棄する際の注意点
処分行為には注意
遺産を相続放棄する際には、いくつかの注意点があります。処分行為とは、財産を売却、賃貸、譲渡など、その所有権や使用権に直接的な影響を与える行為のことを指します。
相続において、この処分行為を行ってしまうと、法律上「単純承認」をしたものとみなされ、相続放棄の効力が失われる可能性があります。
たとえば、不動産を売却したり、財産となる貴重品を他者に譲渡したりすることは当然に処分行為に当たります。ただし、財産の劣化を防ぐための保存行為や、管理行為は処分行為には含まれません。
そのため、相続放棄をする場合は、処分行為を行わずに、法的に認められる範囲で財産を保存・管理することが求められます。
相続放棄の法改正の変更点
相続放棄の法改正の内容を確認する
2023年の民法改正により、相続放棄後の義務に関する規定に変更が加えられました。
改正前民法においては、相続放棄をしたとしても、次順位の相続人等が遺産の管理を開始するまでの間、相続放棄をした相続人が遺産の管理を継続しなければならない規定となっていました。
同制度の改正によって、相続放棄の時に相続人が財産を「現に占有している場合」に限定して、遺産の保存義務が課されることとなりました。
相続財産の保存義務は誰が義務を負うの?現に占有している人とは?
現に占有している人とは、事実上支配・管理している人のことを指します。これには、家に居住している場合だけでなく、持ち物を置いている、または管理している状況も含まれる場合があります。
例えば、夫婦2人が同居している居住不動産があり、一方の配偶者が亡くなった場合、相続放棄時点で残された配偶者が居住しているときはその残された配偶者が「現に占有している人」に該当します。
相続人全員が相続放棄している場合、保存義務は残るの?
相続人全員が相続放棄をした場合でも、上述のとおり、残された財産の保存義務が生じる場合があります。
この保存義務は、相続財産清算人の選任を裁判所に申請することで、保存義務を清算人に引き継ぐことができます。相続財産清算人の選任方法は、後述の「相続財産清算人の選任までの流れと選び方」で説明します。
相続放棄後の家を放置した場合のリスク

相続人全員の相続放棄によって、相続財産清算人を選任せず、残された家をそのまま放置した場合、様々な問題を引き起こす可能性があります。
適切な管理を行わないことで近隣に迷惑をかけるリスクが高まり、行政からの指導の対象となることもあります。さらに、家の老朽化や倒壊に伴う損害賠償請求を受ける可能性も否定できません。
事件や犯罪が起こる可能性がある
相続放棄された家を放置した場合、その家が空き家となり、意図せず犯罪の温床となる可能性があります。
空き家は地域社会から注目されにくく、防犯対策が不十分であるため、不審者の侵入や違法な活動に利用されやすい状態です。例えば、空き家が不法投棄の場として利用される、あるいは犯罪者が隠れ家として使用する事案が問題視されています。※3
※3 警察庁・財務省・国土交通省「空き家(空き部屋)の犯罪利用防止について」
解体費用がかかる可能性がある
相続放棄した家の放置により、経年劣化で老朽化が進み、家の安全性が損なわれることで、自治体が安全上の懸念を理由に、その住宅の解体を相続人に求める場合があります。
しかし、相続放棄をしている以上、解体(処分行為に当たります。)をする権限はもはやなく、相続放棄時に現に占有していた場合に保存行為をする義務があるに過ぎません。相続放棄の効果を維持するためには、危険を放置するほかなくなってしまいます。
相続放棄後も家に住み続けることはできないのか

相続放棄を行った場合、その家に住み続けることは法律上の条件次第で可能な場合があります。
ただし、住む期間や権利の種類によって制約付きで、配偶者居住権が認められ一時的に住むことが許されることがあります。
誰が、どのくらいの期間住めるのか
相続放棄後であっても、一定の条件を満たした人であれば、一定期間住むことが法律上認められます。
例えば、「配偶者短期居住権」が認められる場合です。
配偶者短期居住権とは別に、「配偶者居住権」というものがあり、被相続人の配偶者(内縁の配偶者は含まれない)が、一定の条件のもと亡くなった配偶者の名義になっている家での居住を継続する権利を確保することができます。
配偶者短期居住権とは、被相続人の配偶者が、被相続人の財産に属した家に相続開始の時に無償で居住していた場合に、一定期間、その居住建物を無償で使用することができる権利をいいます。こちらは、被相続人の配偶者が相続放棄をしていたとしても生じる権利になります。
家を使用できる期間は、家の所有者が配偶者短期居住権の消滅請求をしてから6か月が経過するまでの間です。居住が許された期間内に転居先を確保する必要があります。
相続放棄後の保存義務を免れるには?

相続財産清算人の選任までの流れと選び方
相続放棄後でも、残された財産の保存義務が生じる場合があります。この保存義務を免れるには、相続財産清算人の選任を裁判所に申し立てなければなりません。
相続財産清算人は、家庭裁判所が関与して選任される法的な役割を持った遺産総体の清算人であり、相続財産の調査や清算、裁判所の許可を受けて遺産の換価をするといった具体的な業務を遂行します。
相続財産清算人を選任する手続きは、家庭裁判所に清算人を選任する申立てをし、家庭裁判所がが選任した清算人が財産の管理や清算行うこととなります。
裁判所の許可のもと、家等の遺産を売却してお金に換えてし、債権者や特別縁故者などに分配していきます。
相続財産清算人の選任でかかる費用
相続財産清算人の選任には一定の費用が伴います。選任の際に特に重要なのが、家庭裁判所へ支払う予納金です。
予納金は裁判所や事案の性質により金額が異なりますが、多くの場合、数十万円程度が必要とされています。
また、清算人の選任申立てには収入印紙代金、官報広告費や郵送代金が加わります。さらに、専門家である弁護士や司法書士に清算人の選任申立て手続を依頼する場合は、別途報酬が発生します。
相続放棄後の家についてよくある質問

2023年4月の改正より前に相続放棄をした場合はどうなる?
2023年4月以前に相続放棄を行った場合は、改正より前の内容が準用されます。
改正以前に相続を放棄した例として、管理義務、保存義務の存否が不明確であったことが問題として報告されたことがありました。
このようなケースでは、具体的に発生した問題の事実関係に基づいて管理義務、保存義務の存否を判断していくこととなります。
相続放棄後、自治体から家を解体するように言われたら?
仮に自治体からの指示通りに、家を解体した場合は、処分行為に該当し、法定単純承認をしたとみなされ、相続放棄の効力が失われる可能性があります。
このような指示を受けた際には、専門の弁護士や司法書士に相談し、適切なアドバイスを受けることで、最善な解決方法を見つけましょう。
被相続人が滞納している家賃支払いはどうすべき?
被相続人が死亡する前に家賃を滞納している場合、その債務が遺族に引き継がれるかどうかは相続状況によります。
相続を受け入れる(単純承認をする)場合には、滞納した家賃も遺産の一部として取り扱われるため、その支払義務も引き継ぐことになります。一方で、相続放棄を選択した場合、通常はその債務を引き継ぐ必要はありません。
さいご 相続放棄の家について困っているなら弁護士にご相談を
遺産に家が含まれる場合、相続放棄を選択する場合でも適切な手続きと判断が求められます。
法的な専門知識を持つ経験豊富な弁護士に相談することで、不安な部分を解消し、安心して相続放棄の手続きを進めることができます。ご相談の末に、相続をすることになった場合でも、相続登記に関する手続きについても、ご相談可能です。
弊所では初回無料相談にて、相続放棄に関する課題を解決するお手伝いをしています。お一人で悩まず、まずはお気軽にお問い合わせください。
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