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法務情報

2013/08/06

法務情報

【法務情報】御社の営業秘密の管理は十分ですか?

新潟事務所ビジネス弁護士角家理佳

1 営業秘密の管理の重要性
 今年3月,経済産業省が,平成24年度に企業を対象に実施した営業秘密の管理実態に関するアンケートの調査結果を発表しました。
 
 これによれば,過去5年間で,人を通じた営業秘密の漏えい事例が「明らかにあった」「おそらくあった」と回答した企業は,約15%に上っています。また,「明らかに漏えい事例があった」ケースでは,流出元は正規社員の中途退職者によるものが最も多いとの結果が出ています。
 

 企業にとって重要な情報が外部に流出してしまっては,企業の存続に関わります。金融機関へのアンケートでも,営業秘密が漏えいしないように管理されていることは,融資額の変更に影響を与える事情(財務情報を除く)の第2位にあがっており,企業の安定した経営の点から,営業秘密の管理は非常に重要性を増しています。
 

 この営業秘密については,不正競争防止法で法的な保護が図られていますが,同法による保護を受けるためにはいくつかの要件を満たす必要があります。
   

 2 営業秘密3要件

 保護を受けられる営業秘密とは,一般的に「企業秘密」と呼ばれるもののうち,①秘密管理性,②有用性,③非公知性の三要件を満たす技術上,営業上の情報のことを言います。
 

① 秘密管理性

 秘密管理性が認められるには,事業者が主観的に秘密と思っているだけでは足りず,従業員や外部者が管理状況を見た際に,秘密として管理していると認識できる状態にあることが必要です。これまでの裁判例では,㋐情報にアクセスできる者を制限すること,㋑情報にアクセスした者が,それを秘密であると認識できることが必要とされています。
 

② 有用性

 事業活動に利用されることによって経費の削減や経営効率の改善等に役立つものであることを言い,必ずしも現実に利用されていなくても構いません。

 例えば,設計図,顧客名簿,仕入れ先リストは有用性のある情報にあたります。
  

③ 非公知性

 公然と知られていないこと,すなわち情報の保有者の管理下以外では入手できないことを言います。

  

 

3 秘密管理の方法

 前記3要件のうち,企業の事前の対策として重要になるのが,営業秘密の管理です。具体的には,次のような管理が必要になります。
  

 ① 情報の記録媒体の物理的な管理

 例えば,秘密であることを表示する(秘密の記載された書面に㊙の判を押す,「極秘」のシールを貼る等),他の情報と分離して保管する(専用の保管室内で保管する,保管場所の中で営業秘密が記録されている媒体専用のスペースを設ける,施錠可能な場所で管理する等)などの方法です。
  

② 電子データ等の技術的管理

 情報へのアクセスにパスワードを設定したり,営業秘密を保存しているコンピュータは外部に接続しない(スタンドアローン)状態で使用する,秘密情報をデータで外部に発信する場合には全て暗号化する等の手段を講じる等です。
   

③ 秘密を扱う人に対する人的管理

 秘密を扱う人に対して,就業規則,秘密保持契約,誓約書等で秘密保持義務を負わせる等が考えられます。この場合には,秘密の範囲を具体化,明確化する規定を入れることが必要です。

 また,定期的に教育を実施したり,事例の紹介等を通じて注意喚起をする等も重要です。
   

④ 組織的管理

 上記のような対策については組織的に取り組むことが必要です。例えば,情報の複製や持ち出しを制限する規程を定めたり,持出しをする場合には出し入れの都度,責任者のチェックを受ける等,営業秘密管理に関する規程や手順を整えて実施し,かつ,定期的に見直す等の取り組みが望まれます。

   

4 管理の水準

 以上のとおり,営業秘密の流出を未然に防止する点からも,また,万一,秘密情報が漏えいした場合に法的な保護を受けられるように備える点からも,企業にとって大事な情報は,普段から適切に管理しておくことが重要になります。
 

 しかし,大量の情報をすべて最高レベルで管理しようとすれば,管理コストが高くなりすぎますし,業務の効率も低下させることになり,本来の業務を圧迫しかねません。また,必要以上の対策を無理に講じようとすれば,結局は管理が行き届かなくなり,結果的に秘密管理性が認められないという事態にもなりかねません。そうなっては本末転倒です。
 

 そこで,本当に営業秘密として管理すべき情報を取捨選択した上で,漏えいのリスク・管理にかかるコスト・業務効率とのバランスを総合的に考慮して,合理的に管理をすることが重要になります。
 

 法的な保護を受けるためには,必ずしも,一律に高度な水準が要求されるわけではありません。会社の規模,業務の内容等の諸般の事情を考慮して,可能な管理方法を複数組み合わせるなどして,合理的な管理方法を取る工夫が必要です。
 

 

5 今日からできること

 冒頭のアンケートでも,営業秘密の管理について,対策を講じている企業が少ないことが明らかになっています。

  

 それらの実情を踏まえて,経産省では,「営業秘密を適切に管理するための導入手順について~はじめて営業秘密を管理する事業者のために~」という手引きを作成し,HP上で公開し,中小企業にも過度な負担なく導入できる方策を具体的に紹介しています。より詳細な指針等もありますので,これらを参考に,今日からできることに取り組まれることをお勧めします。

 

 

◆弁護士法人一新総合法律事務所 弁護士 角家 理佳◆
<初出:顧問先向け情報紙「こもんず通心」2013年5月1日号(vol.125)>

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