2011/12/06
法務情報
【法務情報】更新料・敷引特約についての最高裁判例解説
1 既に新聞報道などでご存じの方も多いかと思いますが,先月(※2011.7)に入ってから,建物の賃貸借契約に関して,重要な2つの最高裁判決が登場しました。
一つは,「賃貸借契約の更新料特約」に関するもので,もう一つは,「賃貸借契約の敷引き特約」に関するものです。どちらも我々の生活に直接影響を及ぼしうる重要判例ですので,以下,本当に大まかな内容ですが解説します。
2 まず,「賃貸借契約の更新料特約」が何かというと,関西地方でよく見られる特約で,たとえば,1年間の賃貸借契約を締結すると,1年後の契約更新の際に,借主が貸主に対し,賃料の2か月分を「更新料」という名目で支払うなどというものです。
現に,私も大学時代に京都で借りていた物件にもこの特約があり,1年ごとに(記憶が曖昧ですが)家賃の2.5か月分を支払ったという記憶があります。現実には,1年ごとの更新月に,家賃+更新料(家賃の数か月分)を負担するので,なかなか大きな金額を負担することになります。
この特約の問題点は様々指摘されてきたところですが,消費者にとってわかりにくく不利な契約であり,消費者契約法に反するといって無効であるなどと主張されていました。
これに対し,最高裁判決は,「賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載された更新料条項は,更新料の額が賃料の額,賃貸借契約が更新される期間等に照らし高額に過ぎるなどの特段の事情がない限り」有効と判断しました。(7月15日最高裁判所第二小法廷)。
要は(誤解を恐れずにごく簡単にいうと),更新料の取り決めが契約書上はっきり記載されていて,契約するときに更新料がどのような金額であるか(たとえば,何年ごとに何万円必要なのか)が契約を読んで理解できるようなものであれば,特別な事情がない限り有効という意味です。
ですので,今後は,特別な事情がない限りは,「1年ごとに家賃1か月分の更新料がかかります」といった特約は有効と判断されると考えることができるでしょう。
3 次に,「賃貸借契約の敷引き特約」というのは,新潟県内でもよく見られる契約で,借主が賃貸借契約が終了して明け渡す際に,建物のクリーニング費用等々という名目で,一定額を敷金から差し引くというもの(など)です。
この点もまた,私が学生のころ借りていた物件でも,居住年数掛ける1万円が敷金から差し引かれるという特約があり,明渡し時にその物件を借りていた期間分(4年間×1万円=4万円)を,敷金から差し引かれたという記憶があります。
この事件では,高等裁判所は,契約時の貸主借主の情報格差や借主にとって大きな負担であること等を理由に無効と判断したのですが,最高裁判所は逆転して有効と判断しました。
その理由としては,本件契約書に,本件敷引金が返還されないことが明確に読み取れる条項が置かれていたのであるから,借主は,本件契約によって自らが負うこととなる金銭的な負担を明確に認識した上で本件契約の締結に及んだものであると指摘されています。(7月12日最高裁判所第三小法廷)
この判例の登場により,今後は,たとえば,建物明渡し時に3万円のハウスクリーニング費用を頂きますといった契約については,その内容が具体的かつ明確なので,不当に高額である等の事情がなければ,有効と判断される可能性が高いでしょう。
4 以上の2つの最高裁判決から読み取りうる内容としては「具体的な条項が記載された契約書に署名押印したのであれば,後で不平不当を主張してもなかなか受け入れられない」ということです。
すなわち,更新料特約については,契約の際に契約書を見れば毎年その金額を支払わなければならなくなることが理解できる内容の契約書に署名押印した以上は,また,敷引き特約についても,明渡し時にいくら差し引かれるのかが明確に読み取れる条項がある契約書に署名押印したのであれば,後から「その契約は不当だ」と主張しても裁判所は簡単には主張を認めてはくれないということです。
というわけで,契約書に署名押印したら後から契約内容に不服を述べても容易には覆りません。
上記の判例は消費者対事業者に関するものですが,事業者対事業者であればなおさらです。その意味で,契約書は署名押印する前に事前のチェックが重要なのです。
◆弁護士法人一新総合法律事務所 弁護士 大橋 良二◆
<初出:顧問先向け情報紙「こもんず通心」2011年8月15日号(vol.84)>
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