2013/08/20
法務情報
【法務情報】非上場会社の株価を算定する方式
1 はじめに
最近,日本企業の株価について多くの報道がなされています。
株価,すなわち一株当りの価値につきましては,証券取引所に上場されている株式であれば,現在の取引価格をすぐに確認することができます。
他方,国税庁の統計等によれば,日本で株式を上場している会社の数は,日本の会社総数の0.2%未満に過ぎません。したがって,圧倒的多数の会社につきましては,計算を行わなければ株価が分からないということになります。
では,非上場会社の株価は,どのような方式によって算定されるのでしょうか。以下で代表的な算定方式を簡単にご紹介いたします。
2 純資産方式
会社の純資産額を発行済み株式数で割ることによって,株価を算定する方式です。
この方式は,客観性に優れているという利点,並びに,清算手続中または清算予定の会社,過去に蓄積された利益があるが将来の利益があまり期待できない会社,及び赤字体質の会社において,実態を株価に反映させやすいという利点があります。
問題点としては,収益獲得能力を株価に十分に反映できないため,例えば知的活動が重要な役割を果たす産業(研究,ソフト開発等)及び労働力に対する依存度が高い産業(サービス業等)等について,実態と株価が乖離してしまう,といった問題があります。
3 DCF方式(ディスカウントキャッシュフロー方式)
将来予測される年度別収益を現在価値に割り引いて,その合計額を発行済株式数で割ることによって,株価を算定する方式です。
この方式は,近時成長している企業及び収益力の高い企業において,実態を株価に反映させやすいという利点があります。
問題点としては,将来の収益及び適正な割引率(利子率にリスクを加えた割合)の算定が難しく,かつその算定に主観が入る可能性があるといった問題があります。
4 ゴードン・モデル法
将来予測される配当金の額を基礎として株価を算定する方式であり,かつ内部留保率を配当の増加要因として考慮するものです(内部留保の再投資によって将来利益が増加するという考慮)。
継続して適正な配当を行っている会社において,実態を株価に反映させやすいという利点があります。
その反面で,継続した配当を行っていない企業では用いることができない,並びに会社の配当性向によっては収益力及び純資産の状態を株価に適正に反映できない,といった問題があります。
5 比準方式
同業上場会社のPER(株価収益率)及びPBR(株価純資産倍率)等との比較を行うことによって,株価を算定する方式です。
適切な比較対象となる上場会社が存在する場合は,市場での取引環境を反映できるという利点があります。
その反面で,適切な比較対象がない場合には使用することができません。
6 裁判例の傾向
裁判実務においては,例えば,“非上場株式を保有している株主が,会社に対して当該株式の買取りを請求した”という事案において,請求者と会社との間で株価が争いになることがあります。
裁判例の傾向としては,前記のようにそれぞれの算定方式には一長一短があることから,対象会社の特性を考慮した上で,上記のような算定方式を単独でまたは複数組み合わせて株価を算定しています。以下に例を挙げます。
(1)東京高裁平成22年5月24日決定
事業譲渡に反対した株主が株式買取請求権を行使した,という事案です。
純資産方式は継続企業としての価値を評価する場合には適当でない,など判示した上で,DCF方式を採用しました。
(2)福岡高裁平成21年5月15日決定
株式譲渡制限のある会社において,株主の譲渡承認請求を会社が承認しなかったため,株主が株式買取請求権を行使した,という事案です。
純資産方式以外の評価方式に依存することに少なくない危険性が認められる場合には純資産方式を基本にして算定するのが相当である,など判示した上で,純資産方式とDCF方式とを7:3の割合で併用しました。
(3)広島地裁平成21年4月22日決定
(2)と同様,株主の譲渡承認請求を会社が承認しなかったため,株主が株式買取請求権を行使した,という事案です。
①継続企業としての価値の評価に相応しい評価方法はDCF方式である,②会社は直近3年度において配当を実施しており,配当性向は上場全銘柄の配当性向に照らして特に不合理とは考えられないからゴードン・モデル法を採用することに特段支障はない,など判示した上で,DCF方式とゴードン・モデル法とを1:1の割合で併用しました。
7 おわりに
以上のとおり,非上場会社の株価につきましては様々な算定方式があり,当事者間で争いが起こる場合があります。お困りの際には,ぜひ当事務所の弁護士にご相談いただければと存じます。
なお,非上場株式を相続して相続税を計算するという相続の場面につきましては,国税庁が算定方式を定めていてその方式に従う必要がありますので,ご注意ください。
◆弁護士法人一新総合法律事務所 弁護士 海津 諭◆
<初出:顧問先向け情報紙「こもんず通心」2013年5月15日号(vol.126)>
カテゴリー
月間アーカイブ
- 2024年11月(1)
- 2024年10月(1)
- 2024年9月(1)
- 2024年8月(1)
- 2024年7月(2)
- 2024年6月(2)
- 2024年5月(2)
- 2024年4月(1)
- 2024年3月(2)
- 2024年2月(2)
- 2024年1月(1)
- 2023年12月(1)
- 2023年10月(2)
- 2023年9月(2)
- 2023年8月(2)
- 2023年7月(2)
- 2023年5月(1)
- 2023年4月(2)
- 2023年3月(2)
- 2023年2月(2)
- 2023年1月(2)
- 2022年12月(3)
- 2022年11月(2)
- 2022年10月(1)
- 2022年9月(1)
- 2022年8月(2)
- 2022年7月(2)
- 2022年6月(1)
- 2022年5月(1)
- 2022年4月(1)
- 2022年3月(2)
- 2022年2月(1)
- 2022年1月(1)
- 2021年12月(1)
- 2021年11月(1)
- 2021年10月(2)
- 2021年9月(2)
- 2021年6月(1)
- 2021年4月(2)
- 2021年3月(1)
- 2021年1月(3)
- 2020年12月(3)
- 2020年11月(10)
- 2020年10月(5)
- 2020年9月(7)
- 2020年8月(4)
- 2020年7月(3)
- 2020年6月(3)
- 2020年5月(11)
- 2020年4月(5)
- 2020年3月(2)
- 2019年12月(1)
- 2019年9月(1)
- 2019年7月(2)
- 2019年6月(3)
- 2019年5月(2)
- 2019年4月(1)
- 2019年3月(3)
- 2019年2月(2)
- 2018年12月(1)
- 2018年10月(2)
- 2018年9月(1)
- 2018年7月(1)
- 2018年6月(1)
- 2018年5月(1)
- 2018年4月(1)
- 2018年3月(1)
- 2017年12月(1)
- 2017年11月(2)
- 2017年5月(1)
- 2017年3月(1)
- 2017年2月(2)
- 2016年12月(5)
- 2016年8月(2)
- 2016年7月(3)
- 2016年5月(1)
- 2016年4月(2)
- 2016年3月(4)
- 2016年2月(3)
- 2016年1月(1)
- 2015年11月(1)
- 2015年9月(1)
- 2015年8月(1)
- 2015年7月(1)
- 2015年6月(1)
- 2015年4月(1)
- 2015年3月(2)
- 2015年1月(3)
- 2014年9月(6)
- 2014年8月(3)
- 2014年6月(3)
- 2014年5月(3)
- 2014年4月(2)
- 2014年2月(2)
- 2014年1月(2)
- 2013年12月(5)
- 2013年11月(1)
- 2013年10月(5)
- 2013年9月(5)
- 2013年8月(2)
- 2013年7月(2)
- 2013年6月(4)
- 2013年5月(2)
- 2013年4月(3)
- 2013年3月(3)
- 2013年2月(2)
- 2013年1月(1)
- 2012年12月(2)
- 2012年11月(2)
- 2012年10月(1)
- 2012年9月(2)
- 2012年8月(2)
- 2012年7月(2)
- 2012年6月(2)
- 2012年5月(1)
- 2012年4月(2)
- 2012年2月(2)
- 2012年1月(3)
- 2011年12月(2)
- 2011年11月(3)
- 2011年10月(3)
- 2011年9月(8)
- 2011年8月(10)
- 2011年7月(8)
- 2011年6月(8)
- 2011年5月(10)
- 2011年4月(9)
- 2011年3月(9)