2013/09/17
法務情報
【法務情報】インターネット上で名誉毀損された場合の対応
1. 掲示板管理者への請求
(1) ネット掲示板上で,誹謗中傷される書き込みがあった場合,当該書き込みの削除要請をすることが最も簡便な方法です。
通常,掲示板管理者は,書き込みの削除要請を受け付けていますので,掲示板の案内をよく読んでみましょう。
(2) 削除要請に応じてもらった場合
誹謗中傷された書き込みが掲示板から削除されれば当初の目的は達したといえるでしょう。
ただし,検索すると,削除されたはずの書き込みが検索結果として表示されることがあります。これは検索エンジンが「キャッシュ」と呼 ばれる記憶領域に過去のデータが保存されているために起こる現象です。そのため,念のため,大手検索エンジンに対しては,「キャッシュ」の削除要請もしておくことが望ましいでしょう。
(3) 掲示板管理者に対する削除要請に応じてもらえなかった場合
誹謗中傷された書き込みが名誉毀損であることが明らかな場合には,掲示板管理者に過失が認定されるような場合には,同管理者に対して損害賠償請求することができます。
ここで難しいのは,法的に名誉を毀損したといえる場合は,一般の方が想像されているよりは幅が狭いものです。なぜなら,名誉保護の反対利益として表現の自由が憲法上保障されているからです。
書き込みされた本人が不快に思ったとしても,特に公人の場合は,世間的に正々堂々と批判されなければならない場合もあります。また,納得のいかない批判には,反論すれば足りるともいえます(対抗言論の法理)。このように表現の自由の価値が高いため,保護される名誉の幅は限定的に解されてしまいます。
2. 投稿者への請求
(1) まずは,誹謗中傷する書き込みをした投稿者に対して,削除請求や損害賠償請求することが考えられます。
ただし,ネット上の書き込みは匿名によってなされることが主流であるため,誹謗中傷する書き込みをした者を特定するための情報を取得する必要があります。
そこで,特定電気通信による情報の流通によって自己の利益を侵害された者は,役務提供者に対して,発信者情報開示請求をすることになります。
この開示請求の根拠は,「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」,いわゆるプロバイダ責任制限法に求められます。同法により,情報開示請求の対象となる特定電気通信役務提供者とは,ウェブホスティング等を行うプロバイダ等や第三者が自由に書き込み可能な電子掲示板を運営している者をいいます。なお,プロバイダとは一般にインターネットの接続サービスを行う業者のことをいいます。
つまり,これらプロバイダ等に対して,情報開示を求めることになります。
(2) 任意の情報開示に応じない場合
裁判により,情報開示を求めなければなりません。
また削除等請求の仮処分命令を申し立てる場合には,裁判所から担保金なども求められることがあります。
そのため,自己の名誉を守ろうと考えた場合には,予想以上の負担を強いられることも覚悟しなければならないこともあります。
3. 対抗言論の法理が否定される場合
先ほど,対抗言論の法理により保護される名誉が制限されるということを書きましたが,インターネット上の言論に対抗言論の法理が常に適用されるべきでしょうか。むしろ,対抗言論の法理を制限し,名誉の保護を優先した裁判例を紹介します。
当該事例では,掲示板に立てられたスレッドが請求者を社会的に陥れることを目的としたスレッドでした。このような場合,請求者が掲示板内で反論したとしても,「不特定多数の利用者が(請求者ら)を一方的に攻撃する状況にあったと認められるから,そもそも(請求者ら)と対等に議論を交わす前提自体が欠けており,(請求者ら)による反論がその社会的評価の低下を防止するような作用を働かせる状況にあったとは認め難く,(請求者ら)に法的救済を拒絶してまで本件ホームページ上における反論を求めることに妥当性はない」と判断したものがあります。
このように対抗言論の法律は常に妥当するわけではありませんので,場合によっては法的解決を求めることが有益な場合があります。
インターネット上での名誉毀損は,放置すると被害者の受ける不利益の程度が過大になるおそれがあります。気になる書き込みがあった場合には,気軽に相談してみて下さい。
◆弁護士法人一新総合法律事務所 弁護士 中川 正一◆
<初出:顧問先向け情報紙「こもんず通心」2013年6月15日号(vol.128)>
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