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2024/10/03

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袴田巌さんに対する無罪判決を受けて(弁護士 朝妻 太郎)

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再審無罪判決が言い渡されました

 

1966年6月に静岡県清水市で発生した一家4人が殺害された事件について死刑が確定していた袴田巌さんに対する再審無罪判決が9月26日に言い渡されました。

検察による控訴(不服申立期限)が10月10日ということですので、間もなく控訴するか否かの結論が出されることになります。

 

死刑囚に対する再審の無罪判決は戦後5例目とのことです。

捜査機関による証拠のねつ造の認定、袴田さんの自白も肉体的・精神的苦痛を与えて供述を強制する非人道的な取り調べで獲得された等と強い言葉で非難されたこと等から弁護側の主張を全面に認めたと大々的に報じられています。

再審無罪までの長い年月を考えれば、袴田さんとご家族にこれだけの苦痛を強いたことについて、法律を職とする者として、忸怩たる思いを禁じえません。

 

「再審」とはどんな制度か

そもそも、「再審」という制度はあまり馴染みがないと思いますので、制度についてご説明したいと思います。

民事事件でも再審はありますが、ここでは刑事事件に限定して説明したいと思います。

 

再審とは、判決が確定した事件について裁判をやり直すことをいいます。

判決に不服がある場合の上訴(控訴・上告)は、判決が確定する前に用意されている制度であり、異なります。

いわゆる「三審制」の外にある制度で、有罪判決が確定した事件で、事実認定の誤りに基づいて無罪や減刑を認めるべき新たな証拠が発見された場合に、えん罪の被害者を救済するために設けられている制度です。

 

再審手続は長い道のり

再審手続は再審法という法律が存在するわけではなく、刑事訴訟法「第四編 再審」の第435条から第453条のわずか19条の中に規定されています。

今回の袴田事件は再審判決が下された、つまり再審が開かれたわけですが、そもそも、前提として再審開始の決定がなければ再審手続にのりません。

仮に再審開始決定が出ても、それに対する検察の抗告(不服申立)がなされることが通常で、相当な長期間を要することになります。

袴田事件では2008年4月に第2次再審請求がなされ、その再審開始決定が確定したのが2023年、再審無罪判決が2024年ですから、いかに長い道のりであるかが理解いただけると思います。

 

また、19条というわずかな条文で規定されている手続であるため担当する裁判官の裁量が大きすぎる(人によって審理の進め方に大きな差が生じてしまう。)という弊害や、再審請求人に対し適切な証拠開示がなされず真実解明の妨げになっているという指摘もされています。

日本弁護士連合会では以前より、この再審手続に関する規定の改正を求めていましたが、袴田事件再審無罪判決が強い後押しとなり、情勢が動くことが予想されます。

 

「再審」というのは、私たちの日常生活からは少し遠い存在のように感じられるかと思いますし、実際にはじめて聞いた方もいるかと思いますが、今回の判決を契機として、今後の動きに是非注目いただきたいと思います。

 

 

この記事を執筆した弁護士
弁護士 朝妻 太郎

朝妻 太郎
(あさづま たろう)

一新総合法律事務所
理事/新潟事務所長/弁護士

出身地:新潟県新潟市
出身大学:東北大学法学部

関東弁護士会連合会弁護士偏在問題対策委員会委員長(令和4年度)、新潟県弁護士会副会長(令和5年度)などを歴任。主な取扱分野は企業法務全般(労務・労働事件(企業側)、契約書関連、クレーム対応、債権回収、問題社員対応など)のほか、離婚、不動産、金銭問題など幅広い分野に精通しています。
数多くの企業でハラスメント研修、また、税理士や社会保険労務士、行政書士などの士業に関わる講演の講師を務めた実績があります。​
著書に『保証の実務【新版】』共著(新潟県弁護士会)、『労働災害の法務実務』共著(ぎょうせい)があります。

 


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