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2013/10/15

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【法務情報】憲法ってなんのためにあるの?

弁護士五十嵐亮長岡事務所その他

 近頃,新聞やテレビのニュースで憲法が話題になっています。

 最近は,96条が特に話題になっていますが,憲法というと国民主権,基本的人権の尊重,平和主義を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか?

 今回は,日常生活ではあまりなじみのない憲法の存在意義について書いてみたいと思います。

 

1 そもそも「憲法」とはなにか?

  一般に「憲法」とは,国家の存在を基礎づける基本法です。

 戦前の明治憲法は,主権が天皇にあるとしたうえで,国民の権利は天皇から与えられたものという考え方をとり,法律によれば権利を制限可能としていましたので,個人の人権の尊重は不完全なものでした。  

 これに対し,現代の日本国憲法においては,個人の人権は生まれながらにして有する,永久不可侵の権利としています。このような憲法を,特に,「立憲的意味の憲法」といいます。

 

2 「立憲的意味の憲法」とはなにか?

  「立憲的意味の憲法」とは,自由主義に基づいて定められた国家の基本法のことをいいます。「立憲的意味の憲法」は,単に政治権力の組織を定めるのみならず,国家権力を制限して個人の人権を保障することが最も重要な目的とされます。

 テレビをみていると,しばしば「憲法は,国家を縛るものであって国民を縛るものではない。」という話が登場しますが,この話はまさに日本国憲法が「立憲的意味」の憲法であることを表しています。

 現代においては,憲法とは,この「立憲的意味の憲法」を指すと考えられており,立憲的意味の憲法ではない憲法,すなわち個人の人権が保障されていない憲法は,無効であると解されています。

 少し話がわかりにくいかもしれませんが,わが国の憲法は日本国憲法という「成文憲法」として存在していますが,その背後には,「立憲的意味の憲法」という普遍的な理念が存在しているので,それに反する場合には,いくら成文憲法を改正しても理論的には無効になるのです。

 

3 「立憲的意味の憲法」と「民主主義」

  さて,ここまでは,立憲的意味の憲法の重要な目的が個人の人権の尊重であること及びこれに反する憲法は無効となりうることを述べてきました。

 多数決によって個人の人権の尊重が侵害されるような憲法改正や法律の制定が行われた場合になぜ無効となるのでしょうか?多数決で決まったことなのだから良いのではないかという疑問がわいてきます。

 立憲的意味の憲法は,多数決の原理についてどのように考えるのかという問題です。

 まず,多数決というと「民主主義」という言葉を連想するかもしれません。「国民投票や国会の議決によって多数決で決めたのだからどんな法律でも良いではないか。」という考え方も一見成り立ちそうにも思えます(このような考え方を「多数決主義的民主主義」といいます)。この考え方を推し進めると,多数決で制定された法律は全て正しいということになるため,実質的に見て明らかにおかしな法律であっても是とされます。つまり,「悪法も法なり」となります。

 戦前の明治憲法はこのような考え方をとっており,形式的な多数決主義的民主主義が不当であることは,歴史を振り返れば明らかです。

 立憲的意味における憲法のもとでは,民主主義も個人の人権の尊重を前提とすることになります。すなわち,単に多数者の支配の政治を意味せず,個人の人権が尊重という実を伴った民主主義でなければならないということになります(このことを「立憲主義的民主主義」といいます)。

 だからこそ,人権の尊重という「実」を伴っていない憲法改正や法律は無効となるのです。

 

4 憲法の最高法規性

  憲法は,国の「最高法規」とされています(98条1項)。

 最高法規とは,どういう意味でしょうか?単に法律が憲法に反してはならないということだけの意味なのでしょうか?

 日本国憲法では,「第10章 最高法規」の章にあえて,「この憲法が日本国民に保障する基本的人権は,(中略)現在及び将来の国民に対し侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。」(97条)との条文を置いています。「最高法規」の章の冒頭に,あえて基本的人権が永久不可侵であることを宣言した条文を置いているのです。

 この基本的人権の永久不可侵性を定めた97条こそが,憲法の最高法規性の実質的な意義とされています。

 

 以上縷々述べましたが,日本国憲法は,国家権力を制限して,人権の尊重を最も重要な価値と位置づけ,この価値を守るために各章が定められています。

 時代の変化によって国家の統治機構のあり方(二院制の問題や地方分権の問題など)に見直しの議論が出てくることは否定できないところですが,国家権力によって人権の尊重という根本的な価値が変容させられることはあってはならないことです。

 

◆弁護士法人一新総合法律事務所 弁護士 五十嵐 亮◆
<初出:顧問先向け情報紙「こもんず通心」2013年7月15日号(vol.130)>

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