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法務情報

2024/11/27

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「自爆営業」とは(弁護士 薄田 真司)

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1 厚生労働省が「自爆営業」をパワハラ防止指針に明記する方針

自爆営業とは、事業主が使用者としての立場を利用し、従業員に不要な商品の購入を強要したり、ノルマを達成できない場合に自腹で契約を結ばせたりする行為をいいます。


厚生労働省は、パワハラに該当する場合もあるとして、自爆営業をパワーハラスメント防止指針(正式名称は「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」)に明記する方針としたようです。


令和6年11月26日に実施された労働政策審議会 (雇用環境・均等分科会)の参考資料に下記の記載があります。

「いわゆる「自爆営業」に関して、職場におけるパワーハラスメントの3要件を満たす場合にはパワーハラスメントに該当することについて、パワーハラスメント防止指針に明記することとしてはどうか。」

これは規制改革実施計画(令和6年6月21日付け閣議決定)を受けてのものです。


なお、パワハラの3要件とは、①職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるもの、であるとされています。

2 「自爆営業」に関する内閣府審議会での検討経過

今回、厚生労働省の審議会で検討される以前にも、内閣府に設置された規制改革推進会議のうち、働き方・人への投資ワーキング・グループにて自爆営業が取り上げられたことがありました。


該当するのは令和5年11月15日付けで実施された同グループの会議です。


「自爆営業対策の推進」が議題の一つとなり、会議に提出された資料に「近年(2020年以降)発生及び報道された自爆営業の事案について、報道や有識者からヒアリングした情報を元に、事務局が、自爆営業の態様や業態をもとに類型化し、整理した。」として、自爆営業の事例をまとめたものがあります。

同資料(「後を絶たない自爆営業」)では、冒頭に「自爆営業の実態そのものが体系的に整理・把握されておらず、それらの行為の法律上の位置づけや違法性の判断基準等も必ずしも明確にされていないことや、民法上の不法行為や公序良俗違反となる場合であっても立証が困難であることや行政上の制裁がないことから、現実的な救済につながることは少なく、実態として放置されてきたと考えられる。」との記載があり、そのうえで、【①自社商品購入行為】及び【②営業ノルマ未達分の買取要求】の大きく2つの類型に事例が整理されています。

3 自社商品購入行為について

内閣府の同グループでは、①自社商品購入行為に該当する事例として、例えば「入社時の半強制的な車の購入・保険の加入」があるとしています。


具体的には、「中古車販売業者において、新入社員が入社後に半ば強制的に自社で車購入を迫られ、更に非常に長期間(120回など)のローンを高金利で組まされる。自動車保険も自社が代理店となっている保険会社の保険に保険料が高くなるプランで加入を強制される。社員が退職後もローンの手数料が10年間会社に入ることで、会社が利益を得られる仕組みとなっている。」との事例が指摘されています。


この事例の資料を作成した事務局は、弁護士等の有識者からの意見をもとにして、「使用者としての立場を利用して、従業員に不要な商品の購入を強要することは、不法行為となる可能性があり、公序良俗に反した場合は売買行為が無効となる可能性。3要素に該当した場合はパワーハラスメントとなる可能性も」あると整理しています。

4 営業ノルマ未達分の買取要求について

②営業ノルマ未達分の買取要求に該当する事例として、例えば「不必要な共済を労働者やその家族が自腹で契約」するものがあるとしています。


具体的には、「A県の農協においては共済契約のノルマが過大であるために、職員が共済契約を自ら契約し、その家族などにも共済契約を締結させるなどしてノルマを達成する行為も行われていた。その結果、職員の可処分所得が減って経済的に苦しくなってしまうという現象も起きていた。また、共済以外にも、ジュース、機関誌、農作物、家電 製品、背広、仏壇等の販売のノルマも課せられていた。」との事例が指摘されています。


また、この事例は、「使用者としての立場を利用して、従業員に不要な商品の購入を強要することは、不法行為となる可能性があり、公序良俗に反した場合は売買行為が無効となる可能性。3要素に該当した場合はパワーハラスメントとなる可能性も」あると整理しています。

5 今後について

今後、厚生労働省において、自爆営業の事例や対策方法の整理等がなされるものと思います。


また、パワハラ防止指針に自爆営業が明記されれば、企業の措置義務の対象となると思われます。


厚生労働省が今後作成して公表すると思われる公的なパンフレット等を参照しつつ、自爆営業を禁止する会社方針の明確化や従業員への周知徹底等が求められることとなると思われます。


この記事を執筆した弁護士
弁護士 薄田 真司

薄田 真司
(うすだ まさし)

一新総合法律事務所 弁護士

出身地:新潟県胎内市
出身大学:神戸大学法科大学院修了
主な取扱分野は、企業法務(労務・労働事件、倒産対応、契約書関連、クレーム対応、債権回収など)。そのほか個人の方の債務整理、損害賠償請求、建物明け渡し請求など幅広い分野に対応しています。
事務所全体で300社以上の企業との顧問契約があり、数多くの企業でハラスメント研修の講師を務めた実績があります。​また、社会保険労務士を対象とした勉強会講師を担当し、労務問題判例解説には定評があります。​

 

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