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法務情報

2024/12/23

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検事が不適正な取調べをした背景には何が?(弁護士 今井 慶貴)

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1. 検察による不適正な取り調べが明るみに

最近のニュースで、大阪地検特捜部が捜査した横領事件で無罪となった不動産会社の元社長が国家賠償を求めている裁判で、元社長の部下を取り調べた検事が「検察なめんなよ」などと強い調子で迫る様子が記録された映像が法廷で再生されたというものがありました。

​ニュースでは実際の映像も流されており、なかなかインパクトがありました。

「うそだろ。今のがうそじゃなかったら何がうそなんですか」

「反省しろよ少しは。何開き直ってんだ。こんな見え透いたうそをついてまだ弁解するか。悪いと思ってんのか。なんだ、その悪びれもしない顔は」

「慎重に慎重を重ねて、証拠を集めて、その上であなたほどの人間を逮捕してるんだ。検察なめんなよ。命かけているんだよ、俺たちは。あなたたちみたいに金をかけてるんじゃねえんだ。なめるんじゃねえよ。必死なんだよ、こっちは。あなたにうそをつき続けさせるわけにはいかないんだよ」

この取調べについては、最高検察庁による監察が行われ、大阪地検に不適正であるとの通知があり、検事に対する指導も行われているとのことです。

​また、元社長が行った付審判請求(※)に基づき、検事を被告として特別公務員暴行陵虐の罪で刑事裁判が開かれることになっています。

​※付審判請求…公務員による各種の職権濫用等の罪について告訴又は告発をした者が、不起訴処分に不服があるときに、事件を裁判所の審判に付するよう管轄地方裁判所に請求することを認める制度のこと。

2.なぜ不適正な取り調べが行われたのか?

ところで、検事は、取調べが録音録画されていることを知っていたにもかかわらず、なぜこのような不適正な取調べをしたのでしょうか?

​証人尋問で、検事は、「大きな声で長い時間追及したのは不穏当だった。元部下は誠実に取り調べに向き合っていないと感じ、真摯に向き合ってほしかった」などと述べたそうですが、このような取調べをすれば誠実に向き合ってもらえると本気で考えていたのでしょうか。

他方で、特捜部の事件という検察の威信がかかっている中で、事件の見立てに沿う供述を得なければならないという強いプレッシャーの中で、このような取調べをしてしまったという見方もなされています。

検事とはいえ、組織の一員である以上、自分の仕事に対する上司の評価を気にせざるを得ない立場であることから、そのような見方には説得力を感じます。​

3. 最後に

今回は、開示された映像をもって取調べの状況が明らかとなりました。


しかし、現在の制度では、任意の取調べが録音録画の対象になっておらず、また、刑事裁判で検察が供述調書を証拠として出さない限り録音録画は公開されないことになっていることから、早急な改善が望まれます。


この記事を執筆した弁護士
弁護士 今井 慶貴

今井 慶貴
(いまい やすたか)

一新総合法律事務所
理事長/弁護士

出身地:新潟県新潟市
出身大学:早稲田大学法学部

新潟県弁護士会副会長(平成22年度)、新潟市包括外部監査人(令和2~4年度)を歴任。
主な取扱分野は、企業法務(労務、契約、会社法務、コンプライアンス、事業承継、M&A、債権回収など)、事業再生・倒産、自治体法務です。
現在、東京商工リサーチ新潟県版で「ズバッと法談」を連載中です。

 

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