2025/02/10
法務情報
バーチャルオンリー株主総会開催の背景と今後(弁護士 長谷川 伸樹)
コロナ禍による会議のバーチャル進出
コロナ禍を経て、あらゆる会議、協議、会合の場がバーチャルの世界に進出しました。
我々弁護士が関与する民事裁判手続の一部や、弁護士会総会も例外ではありません。
皆さんにより身近なところでいえば、勤務先での勤務形態や会議の持ち方の変化のほかに、株主総会でもバーチャルへの進出が取り入れられてきました。
もっとも、法解釈の問題で、以前はバーチャルで参加できる環境を整えるほかに、物理的に入場できる場所を設けない株主総会の開催は認められないものとなっておりました(いわゆる「ハイブリッド型」のみが許容されていたことになります)。
この時世に融通が利かない、と思う方もいるかもしれません。
しかし、物理的に入場できる場所の確保は、会社に出資をしている株主の皆さんが会社に関する事項について会社役員に質問をし、その説明を受ける機会を確保することに他ならないのです。
そのような機会を株主から取り上げるわけにはいかず、ハイブリッド型の開催のみを認める運用となっていたのです。
法改正により株主総会もバーチャル開催が可能に
しかし、令和3年6月16日、産業競争力強化法の一部が改正され、部分的に、物理的に出入り可能な会場を設けない(バーチャルオンリー)株主総会を開催できるようになりました。
バーチャルオンリー株主総会開催の条件としては、①上場会社が、②経済産業大臣及び法務大臣から省令で定められた要件の該当性について確認を受け、③場所の定めのない株主総会を開催することができる定款の定めを置き、④株主総会招集決定時に②の確認を受けた状況が継続していることが必要になります。
上記②の確認においては、バーチャルでの株主総会を実施するため、通信事務の責任者を設置することや、総会開催時に通信障害が起こった場合の対処の取り決め、インターネットを利用することに支障のある株主の利益確保に関する方針の取り決め等をしておく必要があります。
バーチャルオンリー株主総会の開催を法律が認めたということは、株主の質問の機会をないがしろにすることを選んだのでは、と考える方もいるかもしれません。
しかし、産業競争力強化法や会社法においては、バーチャルオンリー株主総会だからといって株主からの質問や動議を受け付けないことを許容しているわけではありません。
また、通信事務の責任者の設置等の要件を確認する経済産業大臣及び法務大臣の確認については、株主の権利確保の環境が整っているかどうかを確認するものと考えるのが相当でしょう。
バーチャルオンリー株主総会の実現により、遠隔地の株主が総会に参加し易くなることや、運営コストの削減、感染症対策など様々なメリットが見込まれます。
また、通信障害の対処例や、インターネットを利用することに支障のある株主の利益確保に関する方針等についても、ノウハウや対処例が集積されていくこととなりますので、制度が拡充される際には大いに参考にすべきものになると考えられます。
現在は、株主総会一般について要件を緩和し、バーチャルオンリーとすることも検討されているようです。
経済産業大臣、法務大臣の確認や定款変更をそもそも不要とし、通信に関連する株主の権利保護を法律の定めとして規定する方針で議論を執り行う予定のようです。
法律の規定そのもので株主の権利保護を図れるようになれば、中小企業においても柔軟にバーチャルオンリー株主総会の実施が可能となり、より身近なものになるのではないでしょうか。
最後に
上記の制度面とは別に、私個人の話になりますが、バーチャルの会議参加では、リアルでの会議参加の場合よりも、心理的に会議内の発言が消極的になりやすい気がしています。
今後バーチャルでの会合の場が増加していくことを考えれば、バーチャルの場での意見交換等についての立ち回りや姿勢、他者の意見の聴取方法等について、参加者としても身につけるべきノウハウや技能があるものと考えます。
令和2年に緊急事態宣言が発令された後、ハイブリッド型のバーチャル株主総会やその他の会議の開催を通じて、バーチャルの会議において手当すべき事項がどんどん明確になっていきました。
上場会社においては、株主が全国各地に多数存在する点においてバーチャル株主総会の需要が高いものでした。
株主の権利保護に対する設備投資が比較的容易であるという点からも、まずは上場会社のバーチャルオンリー株主総会の法整備がなされたものと思われます。
上場会社以外にもバーチャルオンリー株主総会の需要があるものと思われますので、手続の煩雑性を改善した今後の要件緩和の動きについても注目していきたいところです。
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