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法務情報

2025/03/18

法務情報

マイナンバーカードと憲法13条(弁護士 細野 希)

コラムその他弁護士細野希新潟事務所

1 マイナンバーカードの健康保険証利用

令和6年12月2日から健康保険証の新規発行が終了し、マイナンバーカードの健康保険証利用(マイナ保険証)が開始されることになりました。


現在持っている健康保険証は、有効期限までの間、最長で令和7年12月1日まで使用できますが、同月2日以降は、現行の健康保険証は利用できなくなります。

マイナンバーカードを取得していない方には、現行の健康保険証の有効期限内に「資格確認書」が無償で申請によらず交付されることになります。


新しい制度への移行には戸惑いもあると思いますが、このような制度の移行前には、マイナンバー(個人番号)制度が、憲法違反ではないかと争われた事件がありました。

2 事案の概要

マイナンバー(個人番号)を付番されたⅩらが、「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」に基づき、Xらの特定個人情報(個人番号をその内容に含む個人情報)の利用、提供等をする行為は、憲法13条が保障するプライバシー権を違法に侵害すると主張して、国に対し、個人番号の利用、提供等の差し止めを求めるとともに、国家賠償法に基づき慰謝料を求める訴訟を提起しました。

3 憲法13条とは

憲法13条は、「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」と規定されています。

4 プライバシー権とは

プライバシー権は、学説では、自己情報をコントロールする権利や自己決定権などと捉える見解があります。

本件訴訟でも、Ⅹらは、憲法上保障されるプライバシー権の一内容として自己情報コントロール権を認めるべきであり、番号制度により制約されるⅩらのプライバシー権を個人の人格的生存の根源に関わるものであると主張しました。


プライバシー権が憲法上保障されているとしても、その内容をどう解釈すべきかについては、憲法13条から明確に導き出されるわけではありません。


最高裁判所の過去の判例では、憲法13条は、「個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由」を保障していると判示し、プライバシー権の一内容として自己情報コントロール権を認めると判断していたわけではありませんでした。

5 マイナンバー制度の合憲性

マイナンバー制度の合憲性が争われた福岡高等裁判所令和3年9月29日判決は、憲法13条の保障する個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由があるとする一方で、その自由が侵害されることを未然に防止するための手段として、いかなる措置を講じ、いかなる範囲で本人の関与を認めるべきであるかは、憲法13条によって一義的に導かれるものではないと判示しました。


その上で、個人情報の結合を容易にする個人番号の特質を踏まえても、行政機関等が個人情報を利用又は提供するに当たり、一律に本人の同意を要件とすることを憲法上の権利として保障しなければ、直ちに個人の私生活上の自由が脅かされる状況にあるとは認められず、Xらが主張する意味での自己情報コントロール権が憲法13条によって保障されていると認めることはできないと判示しました。


Ⅹらは上告しましたが、令和5年3月9日最高裁判所は、Xらの上告を棄却しましたので、マイナンバー制度の合憲性については、行政機関が特定個人情報の収集、提供等をする行為は、憲法13条の保障する個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由を侵害するものではないという結論になりました。

6 悪用した場合の罰則

マイナンバー制度が憲法13条に違反しないとしても、マイナンバー制度を悪用した場合には、多くの罰則規定が設けられています。


例えば、公務員が、業務に関して知りえた秘密を漏らし、盗用した場合や、職権を濫用して特定個人情報が記載された文書等を収集した場合などは、罰則の対象になります。


また、個人番号を取り扱う者が、正当な理由なく業務で取り扱う個人の秘密が記載された特定個人情報ファイルを提供したり、自己や第三者の不正な利益を図る目的で提供し、盗用したりすることにも罰則が適用されています。


さらに、一般人であっても、不正アクセス行為や不正の手段により、マイナンバーを取得することは罰則の対象になります。

7 まとめ

マイナンバーカードの導入により便利になる手続きがある一方で、紛失した場合など個人情報の悪用の不安も残ると思います。


マイナンバーカードを紛失した場合は、24時間365日体制でマイナンバーカードの一時利用停止のフリーダイヤル(通話料無料)が準備されています。


夜間や日曜・祝日であっても、マイナンバーカードの一時利用停止の連絡が可能になっています。

この記事を執筆した弁護士
弁護士 細野 希

細野 希
(ほその のぞみ)

一新総合法律事務所 理事/ 弁護士

出身地:新潟県新潟市
出身大学:新潟大学法科大学院修了

日本弁護士連合会国選弁護本部委員(2022年6月~2024年5月)、新潟県都市計画審議会委員(2021年~)などを務めています。主な取扱分野は、交通事故と離婚。そのほか、金銭問題、相続等の家事事件や企業法務など幅広い分野に対応しています。
数多くの企業でハラスメント研修、相続関連セミナーの外部講師を務めた実績があります。

 

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