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法務情報

2025/04/07

法務情報

「お客様は神様」では済まされない時代へ(弁護士 朝妻 太郎)

コラム弁護士朝妻太郎新潟事務所

1 東京都等での条例制定への動き

2025年4月現在、日本におけるカスタマーハラスメント(以下、カスハラ)対策の法整備は、国および地方自治体レベルで進展を見せています。​

東京都では、2025年4月1日より「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例」が施行され、顧客から就業者への暴行や過度な要求などのカスハラ行為を防止し、働きやすい環境を守ることが目的として定められました。​

この条例により、事業者にはカスハラ防止の具体的な施策実施が求められています。

他の自治体でも同様の動きを見せています。

2 国の法整備の動向

厚生労働省は、カスハラ対策を企業に義務付けるための労働施策総合推進法の改正を検討しています。​

2025年の通常国会に改正案提出がされましたが、改正法成立の時期は未定です。

今後の動向に注意が必要ですが、改正法が成立した場合には、パワハラ等と同様に、企業にはカスハラ防止措置を講じる義務が課されるものと考えられており、今まで以上に企業がカスハラ問題に正面から取り組むことが求められます。 ​

3 新潟県の取り組み

新潟県においても、カスハラ対策が進められています。​

2025年3月31日、新潟県は「新潟県カスタマーハラスメント対策要綱」および「カスタマーハラスメント対応マニュアル」を策定しました。

​これらは、行政サービス利用者等による理不尽な要求や迷惑行為に対して適切に対応できるよう、判断基準や基本的な対処方法を示したものです。

​あくまで、行政職員等に対するカスハラに関する取り決めではありますが、カスハラを社会的な問題として捉え、対策を講じるべきことが新潟県にも認識されていることの表れといえます。


さらに、新潟市でも2025年4月1日に「新潟市職員カスタマーハラスメント対策基本方針」を発表しました。​

これは、市職員がカスハラ行為から適切に身を守り、円滑な行政サービスを提供するための指針となっています。 ​

4 カスハラ問題の課題と今後の展望

カスハラ対策の法整備が進む中、以下の課題が指摘されています。​

(1)定義の明確化

カスハラと正当なクレームの線引きが曖昧であり、企業や自治体が適切に対応するための判断基準の明確化を求める声があります。

​実際に私共弁護士に寄せられるクレーム対応の相談において、カスハラと正当なクレームとの境界線を明確に示すことは難しく、ケースバイケースで対応しなければならないのが実情です。

(2)企業の対応能力の向上

特に中小企業において、カスハラ防止のための体制整備や従業員教育が十分でない場合があり、具体的な支援策が必要とされています。

​当事務所でもカスハラ対応の研修講師をお引き受けしたり、カスハラ対応指針の策定にあたってアドバイスする場面があります。

(3)罰則の有無

現行の条例や法案では、カスハラ行為に対する具体的な罰則が設けられておらず、実効性の確保が課題となっています。

ただし、カスハラ行為は、刑法や各都道府県の迷惑防止条例違反等に該当するケースもあるため、事案が発生した際には迅速に警察や弁護士に相談することが肝要といえます。​


今後、国や地方自治体、企業が連携し、カスハラ防止のための具体的な施策を推進することが求められます。​

また、消費者への啓発活動を通じて、社会全体での理解と協力を深めることも重要と考えられています。

この記事を執筆した弁護士
弁護士 朝妻 太郎

朝妻 太郎
(あさづま たろう)

一新総合法律事務所
理事/新潟事務所長/弁護士

出身地:新潟県新潟市
出身大学:東北大学法学部

関東弁護士会連合会弁護士偏在問題対策委員会委員長(令和4年度)、新潟県弁護士会副会長(令和5年度)などを歴任。主な取扱分野は企業法務全般(労務・労働事件(企業側)、契約書関連、クレーム対応、債権回収、問題社員対応など)のほか、離婚、不動産、金銭問題など幅広い分野に精通しています。
数多くの企業でハラスメント研修、また、税理士や社会保険労務士、行政書士などの士業に関わる講演の講師を務めた実績があります。​
著書に『保証の実務【新版】』共著(新潟県弁護士会)、『労働災害の法務実務』共著(ぎょうせい)があります。

 

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