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法務情報

2014/01/28

法務情報

【法務情報】保証債務の消滅時効

遺言・相続新発田事務所債務

1 消滅時効とは?

債務者が債権者からお金を借りてから全く弁済せずに(債権者から裁判を起こされたりや支払督促を申し立てられたりすることもなく)一定の期間が経過すると,債務者は消滅時効を援用することができ,債務は消滅します。これが消滅時効の制度です。
  

貸金債務の場合,消滅時効の期間は,銀行など会社からの借入の場合は5年,個人同士の借入の場合は10年とされています。

 

2 保証人がいる場合は?

主たる債務者が債権者からお金を借り,保証人が主たる債務者の貸金債務を保証した場合,主たる債務について消滅時効が完成すれば,保証人も主たる債務の消滅時効を援用し,保証債務の支払いを免れることができます。
   

保証人が,保証債務だけではなく,主たる債務についても消滅時効を援用することができるのは,保証人は,主たる債務の消滅時効によって直接利益を受ける立場にあるので,主たる債務の時効援用の「当事者」にあたるからです。
  

そして,保証債務は,主たる債務に付随する性質を有しているため,主たる債務が時効によって消滅すれば,保証債務もこれに付随して消滅します。
  

これにより,保証人は保証債務の支払いを免れることができるのです。

 

3 保証人が弁済してしまった場合は?

では,消滅時効の完成前に,保証人が債権者の請求に応じて保証債務の一部を弁済していた場合,保証人は主たる債務の消滅時効を援用することができるのでしょうか。
 

まず,原則として,主たる債務者が消滅時効完成前に主たる債務の一部を弁済した場合,主たる債務者が債務を承認したことになり,消滅時効は中断します。

  

したがって,その弁済の時点から再び時効完成に必要な期間が経過しないと,消滅時効は完成しません。

 

よって,一部弁済の時から再度5年や10年など消滅時効に必要な期間が経過しない限り,主たる債務者はもちろん,保証人も支払を免れることはできません。

 

そうすると,保証人が消滅時効完成前に保証債務の一部を弁済した場合にも,消滅時効が中断しており,保証人が消滅時効を援用ですることはできないとも考えられます。

 

しかし,保証人は,主たる債務の債務者ではなく,主たる債務を承認する権利を有しているわけではないので,保証人が保証債務の一部を弁済したとしても,主たる債務の消滅時効は中断しません。

 

一方,先ほど述べたとおり,保証人は,主たる債務の時効援用に関しては「当事者」にあたるので,主たる債務の消滅時効を援用できます。

よって,保証人は,消滅時効完成前に保証債務の一部を弁済したことがあったとしても,主たる債務の消滅時効を援用することができ,主たる債務が消滅するとそれに付随して保証債務も消滅するため,結局,保証人は,保証債務の一部を弁済したことがあったとしても,保証債務の支払を免れることができるのです。

4 保証人が時効援用できない場合がある?!

ところが,最近出された最高裁の判例(最高裁平成25年9月15日第二小法廷判決)によって,保証人が主たる債務の消滅時効を援用することができない場合があることが明らかになりました。

それは,「保証人が主たる債務者の債務を相続した後に,主たる債務を相続したことを知りながら保証債務の一部を弁済した場合」です。

 

最高裁は,判決の中で,保証人が主たる債務者の債務を相続した後に,そのことを知りながら保証債務の弁済をした場合には,主たる債務者による債務の承認として,主たる債務の消滅時効を中断する効力を有するので,保証人は,主たる債務の消滅時効を援用して支払を免れることはできない,ということを述べています。

例えば,父親Aが主たる債務者として銀行Gからお金を借りており,息子Bが保証人として父親の債務を保証していた場合に,Aが死亡してBがAの主たる債務を相続(相続人はBのみと仮定します。)した後に,BがAの主たる債務を相続したことを知りながら,保証人として保証債務の一部を弁済した場合には,Bは主たる債務の消滅時効を援用することはできない,ということになります。

  

この場合,Aの債務を相続したBは,Aから相続した主債務者としての地位と,もともとあった保証人としての地位を合わせ持つことになるので,Bが保証人として保証債務の弁済をしたつもりであっても,その弁済には,Bが同時に負担しているAから相続した主たる債務を承認する意味も含むといえるからです。

 

このように,保証人が主たる債務者の地位を相続した場合には,保証人が消滅時効を援用することができないことがあることが明らかになりましたので,参考にして下さい。

 

 ◆弁護士法人一新総合法律事務所 弁護士 塩谷 陽子◆
<初出:顧問先向け情報紙「こもんず通心」2013年10月15号(vol.136)>

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