2012/04/17
法務情報
【法務情報】安全なネットショッピングの陰に法律あり
1 法律は社会の変化を反映して、古いものが改廃されたり、新しいものが制定されたりします。
ストーカーという耳慣れない言葉が知れ渡った平成12年に、つきまとい行為等を禁止し処罰するストーカー規制法が制定されました。平成14年に「内部告発」が流行語大賞に入賞し、企業内からの内部告発の重要性が取り上げられ、平成18年に公益通報者保護法が制定されました。オレオレ詐欺という言葉が一般化するなど振り込み詐欺が問題となり、平成19年には犯罪による収益の移転防止に関する法律が制定され預金口座の売買が犯罪化されるなどしました。
2 ところで、現在では、買い物の仕方も多様になり、ネットショッピングが日常生活に深く関わり、インターネットを通しての取引が普通になりました。そのような中で、法改正も進み、不正アクセス防止法が平成12年に制定され、他人のIDやパスワードを利用して不正にアクセスすることが犯罪化されました。また、電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律という法律が平成13年に制定され、取引の安全に対する配慮がなされました。
例えば、ネットショッピングにおいて、商品を1個注文しようとしたところ、10個と間違って入力したり、10個と押し間違えたことに気付かずに注文ボタンを押したりして、注文したとします。この場合、売買契約の大事な事項(要素)に、「思い」と「注文の表示」との間に食い違い(錯誤)があります。取引に関する原則を定める民法では、要素に錯誤があった場合には取引は無効となります。しかし、これには但し書きがあり、錯誤について重大な過失があった場合は無効を主張できません。
おそらく、ネットショッピングでの入力の間違いは重大な過失といえるので、間違った注文者は取引の無効を主張できなくなり、「思い」とは異なる「注文の表示」どおりの内容で契約が成立します。10個の商品が届いて10個分の代金を支払わなければならなくなるのです。しかし、それでは、怖くてネットショッピングなんかできなくなります。そこで、民法に特例法を設け、ネットショッピングにおいては、この但し書きの適用を排除して、たとえ錯誤について重大な過失があっても無効を主張できることになりました。
しかし、それでは、販売業者は、いつ勘違いを理由に取引の無効を主張されるか分からなくなり、怖くてネットショッピングなんかできなくなります。そこで、販売業者が、注文内容を確認する画面などを用意して、入力後に、注文者に注文内容の再度の確認をさせた場合は、注文者に重大な過失があった場合は無効を主張できないとして販売業者を保護しています。
この特例法を受けて、実際のネットショッピングにおいては、必ずといっていいほど、最後に、注文内容を再確認する画面が設けられています。知らないところで法律がネットショッピングの安全の仕組みを作っているのですね。
3 長い間変わらない法律もあります。社会には変化しない部分があるのでしょうか。100年以上も前の明治33年に制定された鉄道営業法が現在も生きていて、その第34条1項に、「制止ヲ肯セスシテ左ノ所為ヲ為シタル者ハ十円以下ノ科料ニ処ス」として「婦人ノ為ニ設ケタル待合室及車室等ニ男子妄ニ立入リタルトキ」と規定されています。
この条項は物議を醸したことが記憶に新しい女性専用車両の根拠として取り上げられています。現在のような問題状況を前提にして制定されたかどうか分かりませんが、このような法律が100年以上もの間廃止されずに生きていたことは驚きです。
なお、罰則は10円以下の科料ですが「10円払えば・・・」ということにはなりません。前科になりますし、現在では罰金等臨時措置法で1000円以上1万円未満に引き上げられています。
◆弁護士法人一新総合法律事務所 弁護士 古島 実◆
<初出:顧問先向け情報紙「こもんず通心」2011年11月30日号(vol.91)>
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