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法務情報

2012/07/17

法務情報

【法律相談】インターネット掲示板への悪質書き込み

新潟事務所弁護士今井慶貴ビジネス

Q.私は、飲食店グループを経営していますが、ある日、当社の名前でインターネット検索をしたところ、匿名掲示板に、「内部告発」と題して、当社が放射性物質の基準値を超えた食材を安価に仕入れ、それを調理してお客さんに出しているという、まことしやかな嘘の書込みがなされていることが判明しました。誰が書き込んだかは心当たりがありませんが、それに呼応してデマとしかいいようのない書込みが増え、問い合わせもなされるようになりました。このままでは、営業成績にも影響が出かねません。どうすればよいでしょうか。

 

 

A.それは困りましたね。インターネットの匿名性を利用した悪質な書込みに対しては、①書込みを削除させることと、②書込者を特定して損害賠償請求をすることが考えられます。

 
 書込者を特定することは、何段階にもわたる法的手続が必要になるなど遠い道のりですが、道は開けています。

 
 まず、プロバイダ責任制限法に基づき、掲示板の管理者(ネットで検索可能)に対し、発信者情報(アクセスログ=IPアドレスと接続時間の通信記録。以下「ログ」という。)を開示するように文書で請求します。併せて、掲示板の管理者や当該データが掲載されているプロバイダに、送信防止措置請求(削除請求)をすることも考えます(ただし、ログが抹消されないように削除請求は後にした方がよい場合もあります。)。

 
 この段階で、掲示板の管理者がログを開示してくれればよいのですが、応じない場合には、掲示板管理者を債務者として上記発信者情報開示の仮処分を申立てて、裁判所から開示の命令を出してもらう必要があります。

 
 次に、ログから、書込者が経由したプロバイダ(経由プロバイダ)を特定し(ネットで検索可能)、経由プロバイダに上記ログの情報を提供し、書込者の契約情報(氏名・住所・電話番号等)の開示とログの保存を求めます。ログは一般に3~6か月で削除されてしまうので、保存をしてもらえないと契約者の特定は不可能になります(ログの保存までの各手続にかかる時間を考えると、書込みから1か月くらいまでには、初動を起こすのが理想です。)。

 
 任意にログの保存と契約者情報の開示に応じてくれればよいのですが、応じてくれない場合には、まずは、経由プロバイダに対して発信者情報削除禁止の仮処分を提起して、裁判所からログの保存を命令してもらいます。

 
 そして、経由プロバイダに対し、プロバイダ責任制限法に基づき、書込者の契約情報の開示を求める訴訟を提起します。

 
 書込者の契約情報の開示を認める判決が出されると、いよいよ書込者に対する損害賠償請求に至ります。ここから先は、通常の名誉毀損に基づく損害賠償請求と同様であり、交渉による解決ができないようであれば、不法行為に基づく損害賠償請求の訴訟を提起することになります。

 
 書込みの削除の方については、管理者等において任意に削除に応じない場合には、送信防止措置の仮処分や本訴を提起する手段があります。それ以前に、掲示板の管理者から書込者にプロバイダ責任制限法に基づく削除の同意についての照会がなされると、書込者も警戒して書込を停止する効果が期待できます。

 
 いずれにしても、書込が多い場合に、その全てを対象とすると相当な費用を覚悟する必要があり、費用対効果を検討する必要があります。また、時間との戦いという面があり、プロバイダやサーバが外国に所在する場合など、首尾よく進まないケースも出てきます。

 
 これとは別に、書込みの犯罪性が極めて強い場合には、名誉毀損や偽計業務妨害等で刑事告訴をして、警察から発信者を特定してもらう方法も考えられます。しかし、警察の方で積極的に進めてもらえるかは場合によります。当職が関与した案件にも、ネット掲示板への書込みが名誉毀損罪で有罪となった事案があります。

 

◆弁護士法人一新総合法律事務所 弁護士 今井 慶貴◆
<初出:顧問先向け情報紙「こもんず通心」2012年2月28日号(vol.97)>

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