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2011/03/29

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【判例解説】契約締結上の過失について

新潟事務所ビジネス弁護士角家理佳

この記事を執筆した弁護士
弁護士 角家 理佳

角家 理佳
(かどや りか)

一新総合法律事務所
理事/弁護士

出身地:新潟市 
出身大学:早稲田大学法学部

新潟県弁護士会副会長(平成28年度)などを務めています。
主な取扱い分野は、相続全般(遺言書作成、遺産分割、相続放棄、遺留分請求など)です。そのほか、離婚、後見等、家事事件に力を入れています。
​新潟士業相続センターのメンバーとしての活動や、相続セミナーの外部講師を務めるなど、所内外で相続問題の解決に尽力しています。

契約締結上の過失」とは?

 「契約締結上の過失」という言葉をご存知でしょうか。

 
 契約締結上の過失とは、契約締結の段階またはその準備段階における契約締結を目指す一方当事者の過失のことで、契約内容に関する重要な事項について調査・告知しなかったり、相手方の合理的期待を裏切るような行為をすることにより、契約締結後、あるいは契約不成立により不測の損害を被った相手方を救済するための法理論をいいます。

 
 この契約締結上の過失について、最判昭和59年9月18日は、「取引を開始し契約準備段階に入ったものは、一般市民間における関係とは異なり、信義則の支配する緊密な関係に立つのであるから、のちに契約が締結されたか否かを問わず、相互に相手方の人格、財産を害しない信義則上の義務を負うものというべきで、これに違反して相手方に損害を及ぼしたときは、契約締結に至らない場合でも契約責任としての損害賠償義務を認めるのが相当である」と述べて、契約責任を追及しうることを認めました。

 
 そして、平成19年2月27日には最高裁で新しい判決が出ました

 【最高裁】契約締結上の過失に関する判例

 Xの開発・製造したゲーム機を順次Y、Aに販売する旨の契約が締結に至らなかった事案で、YがXに対して契約が確実に締結されるとの過大な期待を抱かせる行為をしたこと等の事情から、YはXに対する契約準備段階における信義則上の注意義務に違反したとされました。

 
 具体的には、Aからゲーム機の開発業者の手配を依頼されていたYが、Aから商品の具体的な発注を受けていないにもかかわらず、YがXとの間の契約当事者になることを前提として、商品の正式発注を口頭で約束したり、発注書、条件提示書を送付するなどの行為を繰り返したことにより、Xが契約締結に強い期待を抱き商品の開発製造をしたという事案でした。

 
 この事案について裁判所は、YはAが商品の買受を承諾しないのに契約を成立させるわけにいかない立場にあったとしても、Yの行為によりXに過大な期待を抱かせ開発製造させたことは否定できず、YはこれによりXに生じた損害を賠償すべき責任があるとしました。

 
 また、平成18年9月4日にも、下請業者が施工業者との間で下請契約を締結する前に下請の仕事の準備作業を開始した事案について、施主が下請業者の支出費用の補てん等の措置を講ずることなく施工計画を中止したことは不法行為に当たるとした最高裁判例が出ています。

 
 この事案は従来の事案とは異なり、施主・下請業者間に契約締結に向けた交渉がなく、また、将来的にも施主自身が契約当事者となるわけではなく、施主が選定する施工業者と下請業者との間で下請契約が成立する可能性があったにすぎませんでした。

 
 しかし、最高裁は、下請業者が将来、施主の選定する施工業者と下請契約を締結できるとの期待を有したことに無理からぬ理由があるとして、信義衡平の原則に照らし、下請業者の合理的期待に相応する施主の不法行為責任を認めました。

 
 これらの判決に鑑みると、契約締結に際してはより慎重な態度が求められることになりそうです。しかし考えてみれば、自分の都合や利益だけを考えて他者に被害を与えてはいけないという当たり前のことを、裁判所は言っているだけなのかもしれません

 

◆弁護士法人一新総合法律事務所 弁護士 角家 理佳
<初出:顧問先向け情報紙「こもんず通心」2007年4月号(vol.15)>
※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。

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