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法務情報

2013/04/09

法務情報

【法務情報】集合物譲渡担保

ビジネス燕三条事務所弁護士海津諭債務

1 集合物譲渡担保とは

 債権者が債権の支払いについて担保を得る方法としては,債権者が,債務者等の所有する動産について,その者の手元に置いたまま自己に所有権を移転させて担保目的物として確保しておくという方法があります。これを動産譲渡担保といいます(なお,動産譲渡担保はこもんず通心103号でも取り上げましたので,よろしければそちらもご参照ください)。

   そして,この動産譲渡担保には,担保の目的物を個々の動産に限定せずに,経済活動の過程で流動する動産を一括して担保の目的物とする方法があります。これを「集合物譲渡担保」といいます。

  例えば,担保を提供する会社が,その施設において原材料を搬入して製品を製造し,または製品を仕入れ,そしてそれらの製品を順次搬出して出荷しているという場合,当該施設においては,原材料,仕掛品及び製品といった動産が入れ替わりながら存在していることになります。これらの動産を一定の範囲で担保目的物とするのが,集合物譲渡担保です。

 

2 担保目的物の特定

 集合物譲渡担保においては,担保目的物が明確になるように,担保目的物の範囲を特定する必要があります。そこで,一般的には,譲渡担保設定契約において例えば次のように所在場所及び種類等を明記することで,担保目的物の範囲を特定します。

  

<条項例>

第○条 譲渡担保権の目的物は,担保提供者が現在下記保管場所に保管し,または将来同保管場所に搬入保管する,担保提供者の所有にかかる下記の物とする。

1 保管場所

  所在地(住所を記載。)

  名 称(施設名,倉庫名等を記載。)

2 目的物

○○株式会社の製造する△△の原材料,仕掛品及び製品

 

3 搬出,搬入の効果

 1で説明しましたように,集合物譲渡担保は,担保提供者による仕入れ,製造及び出荷等の経済活動を妨げずに担保を確保するという方式のものなので,担保権の設定後に,担保目的物の構成部分が変動することが予定されています。

 すなわち,担保提供者は,担保目的物を使用することや出荷のため搬出することができます。また,担保目的物となる物品を新たに搬入することもできます。

  例えば,前記条項例のように指定の場所にある原材料,仕掛品及び製品を担保目的物とした場合,担保設定者は,原材料及び仕掛品を使用して製品とすること,及び製品を搬出して出荷することが可能です。また,担保設定者は,新たに原材料,仕掛品または製品を当該場所に搬入することも可能です。

 指定の場所から搬出された物は,譲渡担保の目的物からは外れ,譲渡担保権が及ばなくなります。逆に,指定の場所に新たに物が搬入された場合は,その搬入された物が譲渡担保設定契約で定めた担保目的物の種類に合致するものである限り,新たに担保目的物の一部となります。

 なお,担保目的物がみだりに搬出されてしまうと,譲渡担保権者は担保価値の減少によって不利益を被ることになります。そこで,譲渡担保権者としては,例えば次のような条項を譲渡担保設定契約に定めておき,搬出について承認権限を持つことや搬出を一定程度に限定することが有益です。

 

<条項例>

第○条 担保提供者は,担保権者の個別の承認を得た上で,担保目的物を通常の営業に必要とされる範囲内で無償で使用することができ,また通常の営業目的のために第三者に対して相当な価額で譲渡することができる。担保提供者及び債務者は,当該使用及び譲渡の場合を除いては,保管場所から担保目的物を搬出してはならない。

 

4 対抗要件について

   なお,譲渡担保権を第三者に対しても主張できるようにするために,譲渡担保権者が占有改定または動産譲渡登記を行うべきであるという点は,一般の動産譲渡担保の場合と同じです(詳しくはこもんず通心103号をご参照ください)。

 

5 担保権実行の手続

 譲渡担保権者は,一定の事由が生じた場合に,担保権を実行して担保目的物を確定的に取得することによって,未払債務の弁済を受けることになります。

 上記の「一定の事由」としては,例えば,①債務の履行が遅滞したとき,②手形・小切手の不渡りが生じたとき,③債務者が差押え,仮差押え,仮処分もしくは競売等の申立てを受け,または破産,民事再生,会社更生もしくは任意整理の手続に着手したとき,④契約の定める禁止行為に違反したとき,などが考えられ,それらを予め譲渡担保設定契約に定めておきます。

 そして,これらの事由が生じた場合に,譲渡担保権者としては,担保目的物が散逸する前に直ちに担保提供者に対して担保目的物の引渡しを請求することになります。

 仮に引渡しを拒まれた場合は,担保目的物の処分や移転を禁止する仮処分を裁判所に申し立て,かつ引渡しを求める訴訟を提起するという方法により,譲渡担保権者は担保目的物を確保することができます。

 

6 おわりに

 以上,集合物譲渡担保につきまして簡単に説明させて頂きました。

 ご質問などがございましたら,お気軽に当事務所の弁護士にお尋ねください。

 

◆弁護士法人一新総合法律事務所 弁護士 海津 諭◆
<初出:顧問先向け情報紙「こもんず通心」2012年12月15日号(vol.116)>

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