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2015/03/11

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【法務情報】意外と知らない!?採用内定についての法律問題

ビジネス労働弁護士五十嵐亮長岡事務所

1 はじめに

春めいてきました。一般企業では,もうすぐ新入社員が入社する時期だと思います。

 

今回は,意外と知られていないと思われる「採用内定」について取り上げてみたいと思います。

 

2 採用内定はとても曖昧??

「採用内定」とか「内定をもらった」という言葉は,一般的にもよく使う言葉です。就職活動が厳しさを増す昨今では,何社も就職活動をした末に,「採用内定」を勝ち取るというように,とてもポジティブな意味で使用されることが多いように思います。

 

法的に,「採用内定」というのは,とても曖昧な概念です。採用は,法的には,企業(使用者)が,労働契約に応じることをいいます。つまりは,採用は,労働契約が成立している状態です。

 

では,「採用内定」とはどのような状態なのでしょうか?契約は成立しているのでしょうか?正式採用を拒否することは自由なのでしょうか?

 

3 採用内定=契約成立か??

まず,採用内定とは,果たして労働契約が成立している状態なのでしょうか?「内定」というからには,内々に決まっているだけで契約までは至っていない段階である(予約の段階である)ともいえそうです。

 

しかしながら,最高裁は,「採用内定」について,「始期付き解約権留保付きの労働契約」であるという判断をしており(「予約説」を否定しています),現在はこの考え方が定着しています。

 

面倒な言葉が出てきました。どういうことでしょうか?

 

結論からいうと,採用内定=労働契約の成立です。

 

もっとも,一定の採用内定取消事由が発生した場合には,内定取消しが可能ということになります。例えば,内定をもらったのに,卒業できなかった場合には,採用内定取消しが可能となります。これが,「解約権留保付き」の意味です。採用内定を単なる労働契約と解釈してしまうと,卒業できなかった内定者を採用しなければならなくなり,不都合が生じてしまいます。

 

4 採用内定中の契約関係 

~内定期間中に行う研修の法的位置づけはどうなるのか?~

内定期間中に,事前研修を行うことはよくあることだと思います。ここで,内定者に対して,参加を強制することはできるでしょうか?また,事前研修に参加した内定者に対して賃金を支払う必要はあるのでしょうか?

 

まず,採用内定の際に,採用内定によって労働契約の効力を発生させることとしていれば,内定者に対し,事前研修を業務命令として命ずることが可能です。

 

もっとも,この場合には,業務命令として強制力をもって,事前研修をさせることになりますので,理屈上は,事前研修につき賃金を支払う必要が生じます。

 

他方,採用内定の際に,入社日を契約の効力発生日としていれば,事前研修を強制させることはできません。この場合,事前研修に任意参加となりますが,これに対して賃金を支払う必要はないと考えられます。

 

この労働契約の効力発生日が「始期」の問題です。いずれにしても,内定期間中の取り扱いは,内定の際に明確に示すことが必要です。

 

 5 採用内定は,自由に取り消せるか?

採用内定によって,労働契約が成立していると解される以上,合理的理由のない内定取消しは,認められません。内定取消しは,解雇に準じると考えられます。

 

単に,「案外暗い人だった」とか「案外仕事ができなかった」という程度の理由で,内定取消しをすることはできません。

 

内定取消しが認められる具体例としては,病気やけがによって正常な勤務ができなくなった場合,内定時に申告していた経歴・学歴に重大な虚偽があったことが判明した場合,内定時には予測できなかった深刻な業績悪化が生じた場合などがあげられます。

 

採用内定の可否は,個々の事案に即して慎重に判断する必要があります。

 

6 さいごに

「採用内定」についておおまかに概略を書いてきましたが,思わぬ落とし穴がひそんでいることがおわかりいただけたかと思います。特に,内定期間中の契約関係・内定取消しはトラブルに発展しやすいので,注意が必要です。

 

 ◆弁護士法人一新総合法律事務所 弁護士 五十嵐 亮◆
<初出:顧問先向け情報紙「こもんず通心」2014年3月17日号(vol.146)>

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