2015/01/21
法務情報
【法務情報】預貯金の相続
1 亡くなられた方の預金はどうなるか
亡くなられた方の遺産に預貯金があった場合,これを引き出すには相続人全員の署名捺印が必要であるとするのが,金融機関における一般的な取り扱いとなっています。
しかし,預貯金の相続について,相続人の間で紛争が生じていたりすると,相続人全員の署名捺印を取得することができず,預金を引き出すことができないという事態になります。
2 遺産分割協議
このように,相続人の間で遺産の分割について紛争が生じている場合には,まずは遺産分割協議を行い,遺産をどのように分けるのかを話し合うことになります。
相続人たちで話し合いができない場合には,家庭裁判所の調停や審判を利用して解決することになります。
3 預貯金を協議のテーブルに乗せる
もっとも,預貯金は,当然に遺産分割協議の対象になるものではありません。
相続人の中に行方不明者がいたり,協議に応じないなど何らかの理由で,相続人全員が,預貯金を遺産分割協議の対象にすること,すなわち預貯金を遺産分割のテーブルに乗せることを合意することができなければ,そもそも,預貯金の分け方について協議すること自体が不可能であるため,預貯金は調停や審判の対象にもならないのです。
4 預貯金は当然に分割される
そうすると,相続人の間で,預貯金を遺産分割の対象とすることに合意ができない場合には,一切預貯金を引き出せないかというと,そうではありません。
最高裁の判例は,預貯金のように,相続人の頭数で割ることのできる債権は,相続によって当然に,法定相続分により分割されて各相続人に承継されると判断しています。
この判例に従えば,各相続人は,法定相続分に応じて,預金の払い戻しを請求できることになります。
例えば,母親が亡くなり,相続人は子ども5人,遺産として預金500万円があるという場合について考えてみます。
相続人のうち1人が行方不明であったり,または,全く協議に応じないため遺産分割協議ができず,調停を申し立てても全く出頭しなかったとします。
この場合,500万円の預金を遺産分割協議の対象にすることの合意ができないので,全く預金を分割できないかといえば,そうではありません。
上記のとおり,預金は,法定相続分に応じて当然に分割されるという性質をもっているので,各相続人は,法定相続分に応じた金額について,金融機関に預金の払い戻し請求をすることができることになります。
上記の事例の場合は,各相続人の法定相続分は5分の1なので,それぞれ100万円について,払い戻し請求が可能です。
5 預金払戻請求訴訟
とはいえ,いきなり金融機関の窓口へ行って法定相続分の払い戻しを求めても,相続人全員の印鑑がないと払い戻すことができないという説明がされ,なかなか難しいと思われます。
そこで,相続人としては,金融機関を相手方として,預金払戻請求訴訟を提起することになります。
訴訟の中では,金融機関から反論が出る場合もあるようですが,特段問題がなければ,払い戻しが認められている例が多いようです。
6 ちなみに
相続人の方が金融機関の窓口へ行って,法定相続分の払い戻しを求めても,手続上なかなか難しいと書きましたが,弁護士が金融機関と交渉して,裁判まで行わずに,法定相続分に応じた金額の払い戻しができる場合もあります。
遺産の中に預金があるが,何らかの理由で遺産分割協議を行うことが難しいという場合には,弁護士にご相談ください。
◆弁護士法人一新総合法律事務所 弁護士 塩谷 陽子◆
<初出:顧問先向け情報紙「こもんず通心」2014年3月31号(vol.144)>
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