2015/01/28
法務情報
【法務情報】裁判員裁判 ~従業員が裁判員に選ばれたら~
1 はじめに
刑事裁判の手続では,一定の重大事件において,市民が裁判員として参加する裁判員裁判が行われています。
今回は,使用者の観点で,雇用している従業員が裁判員に選ばれた場合の対応や注意点等を説明いたします。
2 休暇を与える義務
労働基準法7条は,「使用者は,労働者が(中略)公の職務を執行するために必要な時間を請求した場合においては,拒んではならない。」と定めています。
裁判員裁判の職務はこの「公の職務」に該当しますので,使用者は従業員に対し,従業員が裁判員裁判のために裁判所に出頭する日について,休暇を与えなければなりません。
3 何日休暇を与えることになるか
裁判員候補者として裁判所から呼出状を受け取った人(一つの事件につき数十人程度です。)は,まず,「裁判員選任手続期日」に裁判所に出頭することになります。この手続は1日で終わり,上記の数十人の中から,通常,裁判員6人と補充裁判員数人が選任されます。
裁判員または補充裁判員(以下,まとめて「裁判員等」と言います。)に選任された人は,引き続き,後日の裁判に参加していくことになります。裁判員裁判は大体4日前後で終わりますが,複雑な事件では長期化することもあります。
裁判員等に選任されなかった人は,上記の「裁判員選任手続期日」の1日だけで手続が終わります。
したがって,使用者としては,裁判員候補者となった従業員にはまず1日の休暇,そしてその従業員が裁判員等に選任された場合にはさらに裁判日数分の休暇を与えることになります。
4 休暇中の給与はどうすべきか
休暇中の給与につきましては,無給としても構いません(ただし,使用者が就業規則等で裁判員裁判のための特別な有給休暇制度を導入している場合は,その定めによります)。
なお,裁判員候補者及び裁判員等に対しては,裁判所から一定額の日当が支払われます。
5 従業員が有給休暇を取得した場合
従業員は,会社の一般的な有給休暇取得の定めに従って,裁判員裁判のための休暇期間について有給休暇を取得することも可能です(この場合でも,裁判所からの日当は使用者ではなく従業員自身が受領することになります)。
6 仕事を理由とした辞退について
裁判員候補者となった人は,仕事が忙しいという理由だけでは,裁判員への選任を辞退することができません。
例外的に,候補者に非常に重要な仕事があり,候補者自身が処理しなければ事業に著しい損害が生じる場合等に限って,辞退が認められます。このような例外事情があるかどうかの判断にあたっては,①裁判員として職務に従事する期間,②事業所の規模,③担当職務についての代替性,④予定される仕事の日時を変更できる可能性,⑤裁判員として参加することによる事業への影響,といった観点から判断がなされます。
そこで,使用者としては,仕事を理由とした辞退が例外的な場合に限られるということを理解した上で,候補者となった従業員に対して安易に辞退を促してしまわないように気を付ける必要があります。
7 不利益取扱いの禁止
裁判員法100条は,「労働者が裁判員の職務を行うために休暇を取得したこと(中略)を理由として,解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。」と定めています。
そこで,使用者としては,従業員が裁判員裁判のために休暇を取得したからといってその従業員を不利益に取り扱わないよう,気を付ける必要があります。
8 早目の報告を求めておくべき
以上のとおり,使用者は,従業員が裁判員候補者となった場合には休暇を与える義務を負っており,かつ,仕事を理由として辞退してもらうことは例外的な場合にしかできません。
そこで,使用者としては,裁判員候補者となった従業員にはその事を早目に報告してもらい,休暇に向けた業務の引継ぎを行うべきです。
3で述べた裁判員候補者への呼出状は,裁判員選任手続期日の遅くとも6週間前までには発送されます。そのため,使用者が日頃から,「裁判員候補者に選ばれた場合には,その事を速やかに報告してください」というお願いを従業員に周知しておけば,従業員からの速やかな報告によって,業務の引継ぎに5週間以上の猶予期間を得ることが期待できます(ただし,従業員の報告が遅くなってしまった場合であっても,2で述べたように休暇を与える義務があり,また7で述べたように不利益な取扱いを行うことはできません)。
9 報告を求めるのが違法ではないこと
なお,誰が裁判員候補者となったかを「公にすること」は裁判員法で禁じられていますが,業務の円滑な引継ぎのために必要な範囲内で会社の上司や同僚等に報告することは許容されています。そのため,使用者が8で述べたように報告を求めることは違法ではありません。
以上,従業員が裁判員に選ばれた場合につきまして,簡単に説明いたしました。裁判員裁判につきましては裁判所のホームページにも詳細な説明がありますので,そちらもぜひご参照ください。
◆弁護士法人一新総合法律事務所 弁護士 海津 諭◆
<初出:顧問先向け情報紙「こもんず通心」2014年4月15号(vol.148)>
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