2013/04/10
法務情報
【法務情報】保険のパラドックス
顧客から,「裁判を起こすぞ。」とクレーム。でも,恐れないで。
顧客からのクレーム対応をしていると,どうしても,裁判との関係が出てきます。商品の欠陥や販売方法が悪かったりして,顧客に損害を与えると,その賠償額をめぐって顧客となかなか話し合いがつかずに裁判になることがあります。
しかし,裁判を起こされるとかえって問題が減って,会社にもよいことがあります。そして,損害保険に加入していると会社の負担が無くなる場合があります。裁判は悪だと思っていたら,裁判を起こされて,結果的には助かったという意味で,「保険のパラドックス」と名付けています。
たとえば,あなたが経営するA社の店舗内において壁にマネキンを掛けて商品である衣服の展示をしていたところ,マネキンの設置方法が悪くマネキンが落下して,買い物中の顧客Bの足を直撃して顧客Bの足の指を骨折させ,顧客Bは治療に数カ月がかかり,その間,顧客Bは自営業を休まざるを得ず,収入を得られなかった場合を考えます。
マネキンを落としたA社はBの治療中はBに対して治療代だけを支払っていました。その他休業損害や,慰謝料までは支払っていませんでした。
治療が終わると,BはA社に対して治療期間中の休業損害や慰謝料として合計500万円くらいを請求しました。このくらいのけがで骨折になると500万円ぐらいの請求はよくなされる請求なので,特に高額な金額ではないと思います。
また,A社の顧客担当者のBに対する初期対応のまずさからA社とBは感情的にこじれ,Bは支払わないと裁判するぞ!と繰り返すようになり,A社の顧客担当者は精神的に疲れてしまいました。
A社は適切な賠償額の判断が付かず,A社が加入している損害賠償保険会社にBから請求された500万円が出るかどうか確認したところ,休業損害の証拠が十分ではなく支払えない,また,慰謝料も保険会社の基準では200万円しか出せず,合計200万円しか出せないとのことでした。
そこで,A社内部では顧客の要求との差額300万円をどういうふうに埋めるのかという話になりました。Bがあまりにも熱心に裁判するぞ。請求してきて,A社は裁判も避けたいし,また,熱心さに根負けしてしまい,300万円を自ら負担して解決しようと決め,保険会社からの200万円と合わせて500万円を支払って解決しようと決めました。
ちょうどそのころBから裁判が起こされ,A社は裁判で負けてしまいましたが判決では400万円払えという判決がでました。
A社の契約する保険会社は判決に従ってA社に対して400万円を支払って,結局A社は負担はありませんでした。
このような結果となる背景には保険の実務の構造があります。顧客の要求は500万円です。保険会社が交渉段階で保険会社から出すのが保険会社の基準で200万円です。しかし,裁判の判決で幾ら払えというふうに命じられると,その判決の金額が保険会社から出るということになります。
保険契約の内容にもよりますが,普通,判決が出ると判決の金額が全部出るということになると思います。結局このA社としては,裁判を起こされた結果,賠償金が全部保険から出たということになります。
もし裁判を避けて話し合いをしていれば,保険から200万円,自ら300万円を支払ったことになります。
そして,裁判で解決する,大きなメリットとしては,会社担当者が顧客との直接的な感情的な対立から開放され,精神的に楽になり,他の顧客に対する対応に勢力を注ぐことができることがあげられます。
さらに,顧客との交渉では直接話すことがはばかられる顧客の落ち度なども指摘できます。
裁判は,過失の有無と損害の金額だけが冷静に判断されるので,早い段階で裁判に持ち込むと早い解決ができるという場合があります。
「裁判するぞ」と言われても恐れることなく,「はい,どうぞ」というふうに答えてもいいかと思います。
ただし,弁護士費用とか,裁判それ自体に手間がかかってしまいますけれども,それは仕方がないことですね。加入されている損害保険が弁護士費用もカバーしてくれるかどうか確認も必要です。
これまで,会社の側から書きましたが,顧客の側からしても,会社と同様のメリットがあると思います。
裁判手続きによって,会社担当者との感情的な対立から解放され,法律上適切な金額の賠償を受けられることになります。
弁護士を使った場合は,原則自己負担になりますが,一部を訴訟の請求額に上乗せしたり,経済的に余裕がない場合は法テラスを利用したり,顧客が加入する保険に弁護士費用特約がある場合はそれを利用して,弁護士費用を保険から出してもらう可能性もあります。
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