2016/02/08
法務情報
独占禁止法の改正~審判制度の廃止等~
1 独占禁止法の改正
2013年12月に,独占禁止法(以下「独禁法」)の改正法が成立し,公布されました。
改正法は,公布の日から1年6月を超えない範囲内において政令で定める日から施行されますが,
早ければ平成26年度中にも施行される見通しです。
※2015年4月1日に施行されました。
独禁法というと,あまり馴染みがない方が多いかもしれません。
独禁法は,「公正かつ自由な競争」を促進し,
事業者が自主的な判断で自由に活動できることを目的とした法律です。
私的独占,不当な取引制限(カルテル),不公正な取引方法等を禁止し,違反者に対しては,公正取引委員会(以下「公取委」)が違反行為を除くために必要な措置を命じたり(排除措置命令),課徴金が課されます(課徴金納付命令)。また,刑事罰も定められています。
新潟県内で独禁法が問題となった事件というと,新潟市の下水道工事をめぐる官製談合事件,タクシー業界のカルテル事件(係争中)が記憶に新しいでしょう。
2 改正のポイント(その1)~審判制度の廃止・ 排除措置命令等に係る訴訟手続の整備
従来,公取委がした排除措置命令等の処分を不服とする場合には,
公取委の「審判官」が審理する審判手続で争い,審判の結果(審決)に対する不服があれば,
東京高裁に提訴して審決取消しを求めるという仕組みになっていました。
審判では比較的厳格な手続で準司法的に判断されるとはいえ,
公取委が自らした処分を審判で覆すことは期待しがたい面もあり,
経団連などから「検察官が裁判官を兼ねるような仕組み」と批判されてきました。
そこで,改正法では公取委が行う審判制度を廃止しました。
それに伴い,審判で認定された事実認定について裁判所を拘束する「実質的証拠法則」と「新証拠提出制限」もなくなりました。
そして,従来の審判制度に代わり,公取委の行政処分(排除措置命令等)に対する不服審査(抗告訴訟)については,その第一審機能を地方裁判所に委ねることにし,事件の専門性に鑑み,判断の合一性を確保する観点から,「東京地裁の専属管轄」とされました。
また,慎重な審理・裁判を確保するために,東京地裁(第一審)においては,
3人の裁判官の合議体で行うこととし(場合により5人の裁判官の合議体でも行える),
東京高裁(控訴審)においては,5人の裁判官の合議体で行えることとしました。
3 改正のポイント(その2)~排除措置命令等に係る意見聴取手続の整備
公取委の処分前の手続きも整備されました。
従来,処分前の手続は「審査官」が主催し,審査官の説明と書面による意見等の提出の機会は与えられていたものの,証拠の閲覧(謄写は不可)や審査官に対する口頭での質問の機会の付与は,審査官の裁量とされていました。
一般の行政処分では,行政手続法により,
処分前に処分庁が当事者に証拠を閲覧させ,当事者の言い分を聞く聴聞手続が行われますが,
公取委の処分ではより簡略な手続きしかなかったのです。
そこで,改正法では,一般的な行政処分に近い手続を整備しました。
以下で説明することは排除措置命令のみならず,課徴金納付命令や独占的状態に係る競争回復措置命令についても準用されます。
第1に,「指定職員が主宰する意見聴取手続の制度」を整備しました。
事件を調査した審査官ではなく,公取委が事件ごとに指定する中立的な職員(指定職員=手続管理官〔仮称〕)が主宰することとしました。
指定職員は,審査官その他の当該事件の調査に関する事務に従事した職員に,予定される排除措置命令の内容等(予定される排除措置命令の内容,公取委の認定した事実,法令の適用,主要な証拠)を意見聴取の期日に出頭した当事者に対して説明させなければなりません。
また,当事者は,意見聴取手続に当たり,代理人を選任することができるほか,
意見聴取の期日に出頭して,意見の陳述,証拠の提出,指定職員の許可を得ての審査官等に対する発問ができます(期日への出頭に代えて,陳述書や証拠を提出することもできます。)。
そして,指定職員は,意見聴取の期日における当事者の意見陳述等の経過を記載した調書,事件の論点を整理して記載した報告書を作成し,公取委に提出し,公取委は,排除措置命令に係る議決をするときは,指定職員から提出された調書及び報告書を十分に参酌しなければならないとされました。
第2に,公取委の認定した事実を立証する「証拠の閲覧・謄写」規定が整備されました。
当事者は,意見聴取の通知を受けた時から意見聴取が終結するまでの間,意見聴取に係る事件について公取委の認定した事実を立証する証拠の「閲覧」を求めることができます。
また,閲覧の対象となる証拠のうち,
自社が提出した物証と自社従業員の供述調書については,「謄写」を求めることができます。
4 その他の改正点
その他の重要な改正点です。
排除措置命令の執行停止は,行政事件訴訟法25条の手続に一本化されました。
課徴金の納期限が命令送達後3か月から7か月に延長されました。
独禁法25条に基づく無過失損害賠償請求訴訟の管轄が東京高裁から東京地裁に変更されました。
<初出:顧問先向け情報紙「こもんず通心」2014年5月30号(vol.151)※一部加筆修正>
※掲載時の法令に基づいており,現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。
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