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法務情報

2016/03/07

法務情報

男女雇用機会均等法施行規則の改正について

新潟事務所労働弁護士中川正一

1 改正の経緯

男女雇用機会均等法は,平成18年に改正された際,

施行後5年を目処に施行状況を勘案し,必要な措置を講ずるとされていました。

労働局内に設置される雇用均等室には,この5年間でセクシャルハラスメント(以下「セクハラ」といいます。)に関する相談が半数近くを占める状況でした。

 

また,労働局長による紛争解決の援助の申立受理件数は,

募集,採用や配置・昇進・降格・教育訓練などの件数が急増し,

婚姻,妊娠・出産等を理由とする不利益取扱がセクハラを超える年もありました。

 

雇用均等室が行った是正指導の件数は,

セクハラが最も多く,ついで母性健康管理に関するものが多い状況でした。

これらの状況を踏まえた省令・指針の改正案が作成され,平成26年7月1日に施行されました。

「労働者に対する性別を理由とする差別の禁止等に関する規定に定める事項に関し,

事業主が適切に対処するための指針」の主な改正点は以下のとおりです。

 

 

2 セクハラに関する事項

(1) セクハラは,その発生の原因や背景に,性別の役割分担意識に基づく言動があることも考えられるため,こうした言動を無くしていくことがセクハラ防止の効果を高める点で重要であることが明示されました。

(2) セクハラの相談対応にあたって,「放置すれば就業環境を害するおそれがある場合」や,「性別役割分担意識に基づく言動が背景となってセクハラが生ずるおそれがある場合」などが,相談に応ずる範囲に含まれることが明示されました。

(3) 事後対応例として,管理監督者または事業場内の産業保健スタッフなどによる被害者のメンタルヘルス不調への相談対応が追加されました。

(4) 同性に対するものもセクハラに含まれることが明示されました。

 

 

3 差別事例に関する事項

法は,労働者の性別を理由として,差別的取扱をしてはならない事項として,

「労働者の職種及び雇用形態の変更」を掲げていますが,

具体例として「女性労働者についてのみ『婚姻』していることを理由として,『一般職』から『総合職』への職種の変更の対象から排除されること」を追加しました。

 

 

4 コース等別雇用管理について

「コース別雇用管理」とは,

その雇用する労働者について,労働者の職種,資格等に基づき複数のコースを設定し,

コースごとに異なる配置・昇進,教育訓練等の雇用管理を行うシステムをいいます。

 

典型例には,事業の運営の基幹となる事項に関する企画立案,営業,研修開発等を行う業務に従事するコース(いわゆる「総合職」),主に定型的業務に従事するコース(いわゆる「一般職」)などのコースを設定するものです。

 

このようなコース別雇用管理は,従前一般職を女性のみとするなど,

事実上の男女別の雇用管理として機能させる例などがみられました。

近年は,このような雇用管理は改善されつつありますが,

依然として総合職は男性が多数という実態があります。

 

近年,国の行った調査によれば,総合職に占める女性割合は,

0~10%が68.5%で最も高く,50~100%が1.6%で最も低くなっています。

逆に,一般職に占める女性の割合は,50%を超える企業割合が86.9%になっています。

また10年前に採用された総合職の男女別職位割合を見ると,

女性総合職は65.1%が既に離職しており,

企業における職位比較においては,「男性の方が職位が上位」の割合は21.3%,

ただし,「男女で同職位」の割合は29.8%になっています。

 

前記改正では,これまで総合職に限り規制されていた,募集・採用,昇進,職種変更において,

転居を伴う転勤に応ずることができることを要件とすることが,すべての労働者について,

合理的な理由がない限り,禁止されることになりました(施行規則の改正)。

 

また,コース別雇用管理を行うにあたって

明確な指針(「コース等で区分した雇用管理を行うに当たって事業主が留意すべき事項に関する指針」)が制定されました。

 

 

5 ポジティブ・アクションの例外

法は,男女で異なる取扱をすることを原則として禁止しますが,

男女の均等な機会及び待遇の確保の支障となっている事情を改善すること

を目的とする措置(ポジティブ・アクション)の場合,法令違反にならないとする場面もあります。

 

例えば,女性労働者が男性労働者と比較して

相当程度少ない雇用管理区分における募集又は採用に当たって,

採用の基準を満たす者の中から男性よりも女性を優先して採用することなどです。

 

 

6 日本の現状

ポジティブ・アクションはやり過ぎではないかと考える方もいらっしゃると思いますが,

近時の東京都議会のセクハラ野次問題から,

女性が少数の環境ではセクハラが横行してしまう実態が公になったことを踏まえると,

このような例外措置の必要性も理解できるかもしれません。

 

 

◆弁護士法人一新総合法律事務所 弁護士 中川 正一◆
<初出:顧問先向け情報紙「こもんず通心」2014年7月31号(vol.155)※一部加筆修正>

※掲載時の法令に基づいており,現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。

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