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法務情報

2011/08/16

法務情報

【法務情報】従業員の会社に対する競業避止義務

労働長岡事務所弁護士佐藤明

1 はじめに

 従業員が、在職中に他の同業企業を起こしたり、また会社を独立して同業企業を立ち上げ、元の会社の同僚を大量に引き抜くような行動が問題となることがあります。 
 このような従業員(あるいは元従業員)の行動が、会社との関係で競業避止義務に反して、許されないのではないか。
 この問題を、在職中と退職(独立)後に分けて検討します。 
   
2 在職中の義務

 この競業避止義務について、法律上、明文の定めはありません。
 しかし、会社の従業員は、労働契約を会社(使用者)と締結することで、会社に対して、その指揮命令下で労務を提供する立場にあり、会社との信頼関係を維持する必要があることから、会社に不利益を与えない義務(誠実義務)を負います。そして、その派生的な内容として、会社の事業と競合するようなことを行わないことを、従業員は義務として負うといえます。
 なお、会社側としては、この点を明確にするために、就業規則で明記することが考えられ、その規則を前提に、義務違反に対し、懲戒処分や賠償請求をすることが考えられます。
3 退職後の義務

 では、退職後はどうでしょうか。
 退職後には、元従業員は、自らの生活のために、あるいは自己実現のために、どのような仕事に就くか、どのような仕事を始めるかは、原則的には、自由といえます(憲法22条・職業選択の自由)。
 もっとも、会社側では、元従業員が全く自由に競争関係にある事業をすることで、不測の損害を被ることも考えられます。自由競争の社会とはいえ、会社側が立ち行かなくなるような場合に、この元従業員の行動を制限できないかが問題となります。
 そのためには、競業関係の事業を行わないこと誓約(合意)してもらう、就業規則で退職後の対応も規定しておくことが考えられます。ただ、制限し過ぎることは許されないので、その期間や場所など制限を限定する必要があるでしょう。
 そのような合意等がない場合でも、独立に際し従業員を大量に引き抜いたり、顧客情報を勝手に利用するなど、悪質な違反行為とみられれば、損賠賠償請求ができることもあります。
4 おわりに
 会社の立場で考えた場合、不要な問題を残さないために、予め対策をしておくべきとも言えますが、過度に制限を加えることは、従業員(とくに元従業員)を不当に縛り付けることになるので、注意が必要です。

◆弁護士法人一新総合法律事務所 弁護士 佐藤 明◆
<初出:顧問先向け情報紙「こもんず通心」2010年11月15日号(vol.66)>

 

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