2016/02/15
法務情報
もう一つの建物賃貸借契約(定期借家契約)について
Q.
ある人が,海外に2年間単身赴任することになったので,
自宅のマンションを2年間だけ,他人に貸すことになりました。
貸主は,借主との間で,契約書にしっかりと「賃貸期間は2年間とする」と記載し,
「2年経ったらちゃんと出て行って下さいね」と伝えて部屋を貸しました。
ところが,海外赴任が終わるころ,
貸主から,自宅マンションを明け渡してもらおうとし「もうすぐ期間満了だから出て行って下さいね」と伝えたところ,借主に「いやまだ使うので出て行きません」といわれました。
双方承諾の上で2年間という話で貸したのに,明渡しを求めることはできないのでしょうか。
A.
建物(あるいはその一室)を貸す,借りるという場合に,
「普通借家契約」の他に「定期借家契約」があることをご存知でしょうか。
従来型の通常の借家契約の場合には,一度,賃貸借契約を結ぶと,
法律上の「正当事由」がなければ契約を解除することはできません。
解除できないということは,賃貸借契約が更新され,
引き続き貸し続けなければならない義務が生じるということを意味します。
ですので,上記の事例では,
貸主は,明渡しを求める「正当な事由」がなければ明渡しを求めることはできません。
◆建物明渡しの際に必要とされる正当事由とは?
貸主が借主に建物の賃貸借契約の終了を主張して,明渡しを求める場合の正当事由とは,
以下のような事情を考慮して決められます。(借地借家法28条)
①建物の使用を必要とする事情
②建物の賃貸借に関する従前の経過
③建物の利用状況及び建物の現況
④建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付
上記①から④までのとおり,結構,具体的な事情を考慮して決められるので,
裁判をしなければ正当事由があるかどうか,はっきりしないこともあります。
また,場合によっては,明渡しが認められない場合や,
認められても,立ち退き料を支払わなくなる場合があるかもしれません。
◆事例の結論
ということで,前記の事例の場合には,
正当事由がなければ,明渡しを求めることはできない,ということになります。
不思議に思われるかもしれませんが,「2年の約束」で両者納得の上で賃貸したとしても,
2年経ったからといって出て行ってくれ,と単純には言えないのが普通の賃貸借契約なわけです。
◆貸主がすべきだったこと
では,このような場合には,貸主はどうしたらよかったのでしょうか。
このような場合に備えて,「2年契約」という約束を活かすための方法が,「定期借家契約」です。
定期借家契約とは,「公正証書等の書面による契約」で,
賃貸人は「更新がなく,期間の満了により終了する」ことを,契約書等とは別に予め書面を交付して説明することにより,「契約期間限りで更新なし」の賃貸借契約を結ぶことをいいます。
先ほどの貸主も,普通の賃貸借契約ではなく,定期借家契約を結んでいれば,法律上,
借主に対して「期間が満了するので,出て行ってください」という主張が認められることになります。
◆賃貸人にとっての活用法
この定期借家契約の活用法ですが,貸主としての活用法としては,
たとえば,さきほどのように単身赴任で一定期間だけ家を空けることが確実で,
その期間だけ貸したいというケースで利用することが考えられます。
また,将来,立替えや大規模修繕が予定されている場合にも,定期借家契約を利用することがあります。アパート全体の大規模修繕を行う予定がある場合に,その修繕を行うべき時期の手前で,アパート全体の賃借人の契約期間が終わるように,新たな賃借人と定期借家契約を結ぶといったケースです。
(クリックで拡大します)
※ 国土交通省HPより引用
◆賃借人にとっての注意点
賃借人の側からは,契約時に定期借家契約かどうか,注意を払う必要があります。
契約更新はできない他にも,賃借人側からの中途解約も,法律上,制限されるなどの制約があり,
賃借人に不利な点があるからです。
その一方で,定期借家契約は,相場よりも比較的安価に賃貸されているという場合もあるようです。
ですので,賃貸借契約が,普通借家なのか,定期借家なのかは,必ずチェックする必要があります。
◆説明義務
ちなみに,法律上は,定期借家契約を結ぶ場合には,契約書とは別に,定期借家であることを説明する必要がありますし,不動産業者は,通常,宅建業法上の重要事項説明義務として,定期借家契約かどうかを説明する必要がありますので,説明を受けることになるはずです。
というわけで,建物を貸す側にとっても,借りる側にとっても,
大きく分けて定期借家制度と普通借家制度があるということは知っていて損はない知識と思われます。
◆弁護士法人一新総合法律事務所 弁護士 大橋 良二◆
<初出:顧問先向け情報紙「こもんず通心」2014年5月15号(vol.150)※一部加筆修正>
※掲載時の法令に基づいており,現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。
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