2016/03/28
法務情報
「マタハラ」の違法性
1 最高裁平成26年10月23日判決
最近,マタニティハラスメント(略して「マタハラ」)と言う言葉を耳にするようになりました。
「マタハラ」という言葉は,働く女性に対する,妊娠・出産を理由とした,
職場における不利益な取扱いや嫌がらせといった意味合いで使われているようです。
さて,最高裁は,「マタハラ」について,
男女雇用機会均等法に反し,原則として違法であるとの判断を下しました。
今回は,この最高裁判決の内容について,整理してみたいと思います。
2 妊娠中の軽易業務への転換
最高裁判決の事案は,原告の女性が,妊娠したことから,事業主に対して,
軽易な業務への転換を請求したことをきっかけとして「マタハラ」が問題となった事案です。
労働基準法65条3項は,妊娠中の女性が,軽易な業務への転換を請求した場合には,
事業主は,軽易な業務へ転換させなければならないことを規定しています。
最高裁判決の事案では,原告の女性は介護の仕事をしていたようですが,
女性の事業主は,女性の請求を受けて,
女性を,訪問介護の業務から,病院内での介護の業務へと転換させました。
しかし,事業主は,この業務転換の際,
女性を,「副主任」という役職から,役職なしへと降格させました。
今回問題となったのは,この,軽易業務への転換をきっかけとした降格の違法性です。
3 男女雇用機会均等法
男女雇用機会均等法(正式には,「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」という長い法律名です。)9条3項は,事業主は,女性労働者の妊娠,出産,産前産後休暇の取得等,妊娠・出産に関する理由で,女性労働者を解雇その他不利益に取り扱ってはならないと規定しています。
そして,それを理由として女性労働者を不利益に取り扱うことが禁止される
「妊娠・出産に関する理由」の中には,労働基準法65条3項による軽易業務への転換も含まれます。
最高裁は,軽易業務への転換をきっかけとして,
原告の女性を「副主任」から役職なしへと降格させたことは,
男女雇用機会均等法9条3項が禁止する,「妊娠・出産に関する理由」による不利益な取扱いであるとして,原則として違法であると判断しました。
4 例外的に違法とならない場合
(1) 労働者の承諾
以上のとおり,最高裁は,軽易業務への転換を理由とする降格は,
原則として違法であると判断しましたが,
例外的に,次のような場合には,違法とならないとしました。
まず,①その女性労働者が,軽易業務への転換により受ける有利な影響及び,
それに伴う降格等の措置により受ける不利な影響の程度,
降格等の処置についての事業主の説明の内容・経緯,その女性労働者の意向等に照らして,
その女性労働者が自由な意思で降格等の処置を承諾したと認められる合理的な理由が客観的に存在するとき,は例外的に違法にならないというものです。
簡単にいうと,
「誰でも,自由な意思で,降格を承諾するだろう」といえるだけの理由のある「降格」であれば違法とならない,というようなイメージでしょうか。
単に,型どおり説明して,渋々ながら承諾させた,といったことではダメでしょう。
(2) 業務上の支障
例外的に違法とならないもう一つの場合は,
②事業主においてその女性労働者を降格させることなく軽易業務へ転換させることに業務上の支障がある場合であって,その業務上の支障の程度や,軽易業務への転換によって女性労働者が受ける有利な影響,降格によって受ける不利な影響を総合的に考慮して,男女雇用機会均等法の趣旨及び目的に反しないといえる特段の事情のある場合,というものです。
何かしら業務上の支障があるというだけではダメであり,
その女性労働者の受ける有利・不利な影響や,
その意向についても考慮しなければならないとされています。
(3) 厳しい例外要件
最高裁は,上記②の例外要件が認められるかどうかについて,
さらに審理させるため,事件を高裁に差し戻しましたが,例外が認められるには,
(一度読んだくらいではよくわからないほど)かなり厳しい要件を満たす必要があるといえます。
5 裁判長の補足意見
今回の最高裁判決には,裁判長による補足意見が付いています。
最高裁判決の事案では,原告の女性は,育児休業後,
職場復帰した際にも,「副主任」ではなく役職なしとさせられました。
補足意見では,この,職場復帰後の措置が,
「育児・介護休業法(こちらも正式には「育児休業,介護休業等育児または家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」という長い法律名です。)10条に違反する可能性に言及しています。
育児・介護休業法10条は,労働者が育児休業したことを理由として,
不利益な取扱を禁止していることから,
育児休業後に,「副主任」の役職に就任させなかったことは,不利益な取扱いとして,
違法となる可能性があるというものです。
◆弁護士法人一新総合法律事務所 弁護士 塩谷 陽子◆
<初出:顧問先向け情報紙「こもんず通心」2014年10月31号(vol.161)>
※掲載時の法令に基づいており,現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。
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