2016/03/21
法務情報
契約ルールの大改正について
1 民法大改正にむけて
今年の8月,民法の改正に関する要綱仮案が法制審議会民法部会で大筋まとまりました。
調にいけば,来年の通常国会に改正案が提出されることになります。
まだ法律として成立していないので,若干フライング気味ではありますが,
制定から100年を経ての大改正ですので,いまのうちに概要を知っておいて損はありません。
今日は,要綱仮案の一部について説明します。
(注:掲載当時は平成26年です)
2 改正の目的
民法制定から時が経過し,条文の内容がだんだんと時代にそぐわなくなってきました。
また,以前から条文そのものがわかりづらいという批判もありました。
今回の大改正は,
法律の内容を社会・経済の変化に対応させること,
条文をわかりやすくすること,
の2点が目的とされています。
今日は,とりわけ皆さんの日常生活や事業に影響しそうな
①消滅時効,②法定利率,③個人保証,の3点に関する改正原案の内容について説明します。
3 消滅時効期間の一律化
現行法では,民事の場合は(請求できるときから)「10年」,
株式会社との取引など商事の場合は「5年」という消滅時効期間が設けられています。
しかし,民事と商事の区別がわかりづらく,
また民事と商事で一律に5年の差を設けるのが果たして妥当なのかという議論がありました。
これを受けて,要綱仮案では,
民事商事の区別なく, 債権は債権者が
①債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき
or
②債権者が権利を行使することができる時から10年間行使しないとき
時効により消滅するという形に改められています。
あわせて,建設工事などの請負代金について3年,
製造業・卸売業・小売業の売掛債権について2年,
飲食代について1年などというように定められていた職業別の短期消滅時効は廃止される方向です。
予定どおり改正がなされれば,
事業者にとってはこれまでよりも時効管理がやりやすくなるといえるでしょう。
4 法定利率の引き下げ,変動制の導入
現行法では,法定利率は民事5%,商事6%と決まっていますが,
要綱仮案ではこれを一律3%に引き下げ,
さらにその後3年ごとに利率を1%単位で見直すという内容が盛り込まれています。
法定利率の引き下げは,主なところでは,
死亡や後遺症を伴う事故(事件)が起こった場合の損害賠償の額に影響します。
死亡や後遺症を伴う事故にあった場合,逸失利益として,
事故にあわずに働いていれば将来得られたであろう収入から中間利息を差し引いた金額の賠償が受けられます。
つまり,法定利率が低くなれば,
それだけ差し引かれる中間利息(法定利率=中間利息であることが前提)が減り,
支払われる逸失利益の額が大きくなるのです。
平均賃金で計算した場合,27歳の男性(被扶養者2名)が亡くなった場合,
これまでにくらべて損害賠償金の額が約2,000万円増額するという試算結果も出されています。
ただ,損害賠償金が増えれば,
それだけ各種保険料が上がることが予想されるので,良いことばかりではないかもしれません。
5 個人保証の厳格化
特に中小企業では,事業資金等の債務について,
経営者の親族など会社の経営に無関係な第三者が個人保証をすることが多く,
これにより生活の破綻を招くケース,保証の効力を巡ってトラブルとなるケースが少なくありませんでした。
要綱仮案では,個人保証のルールを厳格化し,
事業資金等の債務を会社の経営に無関係な第三者が個人保証する場合,
保証人になろうとする者が,契約に先立ち,
公正証書で,公証人に対し保証債務を履行する意思を表示することを要件とすることでまとまりました。
6 さいごに
ここで説明したのは,要綱仮案のほんの一部であり,
このほかにも日常生活や事業に与える影響が大きい改正点があります。
改正法が制定されてからでは,とても理解しきれない分量ですので,
いまのうちから少しずつでも概要をかじっておくことをオススメします。
かくいう私もこれから勉強をはじめるところですが。。。
◆弁護士法人一新総合法律事務所 弁護士 渡辺 伸樹◆
<初出:顧問先向け情報紙「こもんず通心」2014年10月15号(vol.160)>
※掲載時の法令に基づいており,現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。
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