2016/08/26
法務情報
会社に著作権が認められる場合とは
1 Q 「職務上従業員が作成した著作物は誰の物?」
従業員の退社の際など,しばしば,
これまでにその従業員が作成した著作物の権利が誰に帰属するのか
ということが問題になります。
例えば,従業員が作成した広報用のチラシの著作権は会社と従業員のどちらにあるのでしょうか。
法人著作として会社に著作権が認められる要件について学んでいきたいと思います。
2 法人著作とは?
著作権法15条1項には
「法人その他使用者(以下この条において「法人等」という。)の発意に基づき
その法人等の業務に従事する者が職務上作成する著作物(プログラムの著作物を除く。)で,
その法人等が自己の著作の名義の下に公表するものの著作者は,
その作成の時における契約,勤務規則その他に別段の定めがない限り,その法人等とする。」
と規定されており,一定の要件を満たす場合には,法人が著作者となると定められています。
同条に基づき法人が著作者となる場合を法人著作と言います。
3 著作物性
まず,法人著作として著作権が法人に認められる前提として,
当該制作物が著作物に該当することが必要です。
そして,著作物に該当するためには,以下の(1)~(4)の要件を満たすことが必要になります。
(1) 「思想又は感情」を表したものであること
→ 単なるデータには著作物性は認められません。
但し,「思想又は感情」とは,考え,気持ち程度でよく,高度である必要はありません。
(2) 「表現したもの」
→ 表現形式=創作結果の保護であり,アイデア自体は保護の対象外となります。
(3) 「創作的」に
→ 創作性が必要です。
但し,一般的に独創性や新規性は必要なく,
何らかの個性が表現されていれば足りると解されています。
また,誰が表現しても同じになる物は除かれます。
例えば,版画である原作品を紹介するために撮影された版画の写真は
著作物性が否定されました(東京地裁H10・11・30判決)。
(4) 「文芸,学術,美術又は音楽の範囲」に属するものであること
→ 工業製品は除かれます。
商品デザインは,意匠法の保護対象であり,著作権の対象外です。
(5) 法人著作が認められる要件
以下の①~⑤の要件を満たすことが必要とされます。
① 法人等の発意に基づき作成されるものであること
→ 企画立案の意ではなく,作成するか否かが
最終的に法人等の意思にかかっていれば足りると解されています。
また,実際に著作物の作成作業をした従業員の役職や職務の性質から,
会社の推定的意図に沿うものであれば,
明確な指示に基づかなくても認められる場合もあります。
但し,明確な指示なしで要件を満たすかは争いとなる可能性が高いことから,
紛争予防のためには,指示無しで作成された著作物については,
早い段階で従業員と著作権帰属の確認の書面を取り交わしておくことが大切です。
② 法人等の業務に従事する者が作成すること
→ ここにいう業務に従事する者には,派遣社員も含まれると解されています。
但し,作成物については,
その権利が個人に帰属するとの契約上の特約がある場合には,
特約が優先ですので,契約内容にはご注意ください。
③ 職務上作成するものであること
→ 勤務時間外に勤務場所以外の場所(例えば自宅など)で作成されたとしても,
職務に該当すれば,この要件は満たされるものと考えられます。
職務に該当するかは,職種や役職に応じてケースごとに,
職務として作成が期待されていたといえるか等から判断されます。
しかしながら,職員が勤務時間外に自宅で作成した物については,
自己の作成物との意識を強く有すケースが多く,トラブルになる場合が散見されます。
作成時点で,権利帰属について確認をしておくことが大切です。
④ 法人等の名義で公表すること(但し,ソフトには不要)
→ 当該著作物に,作成者として会社名が入っていることが必要です。
但し,かかる要件については,判例上,公表するとすれば,
法人等の名義を付するような性格のものを含むと拡大されています。
⑤ 作成時の契約,勤務規則その他に別段の定めがないこと
→ 就業規則や雇用契約上,別段の定めがあれば,同特約が優先します。
紛争予防のためには,雇用契約において,
作成物の権利帰属についてきちんとした契約を結んでおくことをおすすめします。
5 退職時の注意点
上記の要件を満たし,会社が著作者と認められる場合にも,
当該従業員の認識不足等が原因でトラブルが生じることがあります。
例えば,当該著作物自体を従業員が保管していたことから,退職時に持ち出されてしまう。
または,会社が今後利用できないように廃棄されてしまうなどです。
一旦,廃棄ないし削除されてしまうと,復元は難しいといえます。
また,損害賠償請求を行う場合にも,損害立証の難しさから,
損害回復の実効性は低い場合が多いといえます。
日頃から,従業員作成物についての権利帰属を明確にし,意識喚起しておくこと,
退職時には,事前に作成著作物等の引き継ぎを指示することが大切です。
<初出:顧問先向け情報紙「こもんず通心」2015年2月16号(vol.168)>
※掲載時の法令に基づいており,現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。
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