2016/08/30
法務情報
民法(債権法)改正のポイント
1 改正法案が国会提出へ
平成27年2月24日,法制審議会で
「民法(債権関係)の改正に関する要綱」が採択され,法務大臣に答申されました。
これを受けて,3月中には通常国会に法案が提出される見通しです。
現行民法は,全5編…総則,物権,債権,親族,相続から成り立ちますが,
このうち「総則」「債権」の部分が1896年の民法制定以来の大改正となります。
「債権」というのは,ある人がある人に特定の行為を請求する権利のことで,
契約に基づく権利が典型です。
「総則」は民法全体の共通ルールを定めた部分です。
この度の改正は,民法制定以来の社会・経済の変化への対応を図り,
国民一般に分かりやすいものとする等の観点から見直しを行うものです。
法制審議会(債権関係)部会における審議の結果,
改正内容はそれほどドラスティックなものではなく,従来の判例や通説を明文化したり,
規定を合理化するなどの穏当なものが目立ちます。
とはいえ,実質的な規律内容が変更となる点も少なくありません。
改正点は非常に多岐にわたるほか,技術的な規定も多いので,
本稿では,特に実務上影響が大きく,皆様に理解していただきたいポイントに絞って解説します。
2 消滅時効
期間の経過により債権を行使できなくなるというのが「消滅時効」の制度です。
現行法では,原則的な時効期間は,権利を行使することが「できる時」から「10年間」です。
改正法では,債権者が権利を行使することができることを「知った時」から「5年間」,
権利を行使することが「できる時」から「10年間」となります。
併せて,商法上の5年間の短期消滅時効は削除となります。
また,職業別の短期消滅時効(3年・2年・1年)は,
区別の合理性がなくなったとして廃止され,上記の原則的時効期間となります。
例えば,商品販売代金は2年間,請負工事代金は3年間でしたが,原則として5年間となります。
債権・債務についての証票・データの保存期間を見直す必要があるでしょう。
3 法定利率
金銭債務の不履行の場合に,当事者間で合意がなければ,法定利率による遅延損害金が発生します。
現行法の法定利率は「年5%」です。
昨今の低金利から高すぎると言われており,改正法では「年3%」となり,
さらに3年ごとに1%刻みで見直される「変動制」となります。
併せて,年6%とされる商事法定利率も削除となります。
例えば,交通事故で死亡や後遺症を負った場合に
将来得られたであろう利益(逸失利益)について損害賠償がなされますが,
これについては法定利率による中間利息が控除される取扱いです。
改正法では,請求権発生時の法定利率による中間利息控除がされますので,
結果として交通事故の損害賠償額の増額,さらには損害保険料の増額が予想されています。
4 保証
他人の保証人になったばかりに,
借金を背負わされる「保証人の悲劇」が跡を絶たないことから,
改正法では「保証人保護」のための規定が設けられます。
まず,事業のための貸金等債務を主債務とする個人保証について,
経営者等(役員,過半数議決権ある者,
共同事業者・事業に従事する配偶者等)以外の保証については,
契約締結前1か月以内に作成した「公正証書」で保証意思を表示しなければ無効となるとされます。
「第三者保証」のハードルを上げるものです。
また,
保証人に対する情報提供義務(契約締結時,債務の履行状況,期限の利益喪失)
が明文化されます。
さらに,
個人がする根保証(保証債務の額が不確定なもの)は
種類を問わず一律に「極度額」(保証の上限額)を定めないと無効となります。
主として,金融実務への影響が大きいと考えられます。
根保証については,不動産賃貸借の保証人もそれに含まれるため,
今後は契約書で極度額を定めるように見直す必要が出てくるでしょう。
5 定型約款
日常の各種取引で使われている「約款」(細かい字で契約内容が書いてあるものです。)
については,これまで規定がありませんでした。
改正法では,「定型約款」として,
「定型取引(ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって,
その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なものをいう。)において,
契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体をいう。」と定義付けました。
そのため,事業者間の取引や雇用契約は対象外となり,
「事業者対消費者」の画一的取引に使われる約款のみが対象となります。
そのうえで,定型約款による契約の内容補充
(相手方の利益を一方的に害する条項は合意したものとみなされない)や,
内容の表示,変更についてのルールが明確にされました。
これに伴い,自社の定款も見直す必要があると思われます。
6 賃貸借
改正法では,「敷金」に関する規定が設けられました。
また,賃借人は通常の使用・収益によって生じた賃借物の損耗や
経年変化の原状回復義務を負わないことが明文化されました。
いずれも,これまでの判例を明文化したものです。
<初出:顧問先向け情報紙「こもんず通心」2015年3月2号(vol.169)>
※掲載時の法令に基づいており,現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。
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