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法務情報

2011/03/15

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【法務情報】男だって顔は大事~ 顔の傷についての労災後遺障害等級の男女差は「違憲」との判決~

新潟事務所弁護士今井慶貴労働

 憲法14条1項は、「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。」と定めています。

 
 「性別に基づく差別」というと、女性が男性より劣位に置かれていることの改善を求めるケースが多かったと思いますが、今回ご紹介する事案は、珍しく逆のパターンです。

 
 事案は、以下のとおりです。

 
 勤務先で金属溶解の作業中に労災で顔や首に大やけどをした京都府の男性(35歳)が、労基署から他の症状と併せて11級の後遺症害であると認定されたのに対し、女性よりも障害等級が低いのは男女平等を定めた憲法に反するとして、国の補償給付処分取消しを求めたというものです。

 
 本年(※2010年)5月27日の京都地裁判決は、労災で「外貌(外見)に著しい醜状を残す」ような後遺症があった場合、女性を7級、男性を給付金額が低い12級と規定した厚労省の障害等級(女性が有利、男性が不利)に対し、「不合理な差別的扱いで違憲」とする画期的な判断を示しました。

 
 国は、訴訟において、国勢調査の結果などを根拠に、女性は男性より接客業などに就く割合が高いとか、化粧品の売り上げなどから外見により高い関心を持っていることなどから、上記等級の男女差は合理的だと主張しました(昨今のご時勢からすると、ある意味スゴい主張ですね)。

 
 しかし、判決は以下で引用するとおり、差別的取扱いの策定理由に根拠がないとはいえないが、差別的取扱いの程度は大きく、策定理由との関係で著しく不合理であると断じました。

 
 「以上のとおり、国勢調査の結果は、外ぼうの醜状障害が第三者に対して与える嫌悪感、障害を負った本人が受ける精神的苦痛、これらによる就労機会の制約、ひいてはそれに基づく損失てん補の必要性について、男性に比べ女性の方が大きいという事実的・実質的な差異につき、顕著ではないものの根拠になり得るといえるものである。
 また、外ぼうの醜状障害により受ける影響について男女間に事実的・実質的な差異があるという社会通念があるといえなくはない。
 そうすると、本件差別的取扱いについて、その策定理由に根拠がないとはいえない。
 しかし、本件差別的取扱いの程度は、男女の性別によって著しい外ぼうの醜状障害について5級の差があり、給付については、女性であれば1年につき給付基礎日額の131日分の障害補償年金が支給されるのに対し、男性では給付基礎日額の156日分の障害補償一時金しか支給されないという差がある。
 これに関連して、障害等級表では、年齢、職種、利き腕、知識、経験等の職業能力的条件について、障害の程度を決定する要素となっていないところ(認定基準。乙3)、性別というものが上記の職業能力的条件と質的に大きく異なるものとはいい難く、現に、外ぼうの点以外では、両側の睾丸を失ったもの(第7級の13)以外には性別による差が定められていない。
 そうすると、著しい外ぼうの醜状障害についてだけ、男女の性別によって上記のように大きな差が設けられていることの不合理さは著しいものというほかない。
 また、そもそも統計的数値に基づく就労実態の差異のみで男女の差別的取扱いの合理性を十分に説明しきれるか自体根拠が弱いところであるうえ、前記社会通念の根拠も必ずしも明確ではないものである。
 その他、本件全証拠や弁論の全趣旨を省みても、上記の大きな差をいささかでも合理的に説明できる根拠は見当たらず、結局、本件差別的取扱いの程度については、上記策定理由との関連で著しく不合理なものであるといわざるを得ない。」

 
 厚生労働省は6月10日(※2010年)、控訴を断念し、違憲判決が確定しました(珍しいことです。)。そして、本年度中の等級見直しを目指すとの報道です。交通事故における後遺障害等級も労災とほぼ同様となっており、この見直しの影響は多方面に及んでいくと予想されます。

◆弁護士法人一新総合法律事務所 弁護士 今井 慶貴◆
<初出:顧問先向け情報紙「こもんず通心」2010年8月31日号(vol.61)>

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