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法務情報

2011/05/31

法務情報

【法務情報】時間外労働の割増賃金率が引き上げられました~労働基準法の一部を改正する法律:平成22.4.1施行~

労働弁護士五十嵐亮長岡事務所

1 概要                         
 少子高齢化が進行し労働力人口が減少する中で、子育て世代の男性を中心に、長時間にわたり労働する労働者の割合が高い水準で推移していること等に対応し、労働者が健康を保持しながら労働以外の生活のための時間を確保して働くことができるよう労働環境を整備することが、昨今の重要な課題となっています。

 
 今回の改正は、このような課題に対応するため、長時間労働を抑制し、労働者の健康を確保するとともに仕事と生活のバランスがとれた社会を実現する観点から、労働時間にかかる制度について見直しを行うものです。

 
2 解説                              
(1)時間外労働の割増賃金率の引き上げ
 1ヶ月に60時間を超える時間外労働(→1日8時間を超える労働。いわゆる「残業」)について、法定割増賃金率が、現行の25%から50%に引き上げられます。
 なお、この割増賃金率の引上げの対象は、時間外労働に限られており、休日労働(35%)と深夜労働(25%)の割増賃金率は従来どおり変更ありません。
 中小企業については、当分の間、法定割増賃金率の引上げは猶予されます(中小企業の割増賃金率については、施行から3年経過後に改めて検討されることとされています)。
 猶予対象となる中小企業は以下のとおりです。

 

【資本金の額または出資の総額】 
小売業5000万円以下、サービス業5000万円以下、卸売業1億円以下、それ以外3億円以下
または
【常時使用する労働者数】小売業50人以下、サービス業100人以下、卸売業100人以下、それ以外300人以下 
(事業場単位ではなく、企業(法人または個人事業主)単位で判断します)

 

(2)割増賃金の支払いに代えた有給休暇の仕組みの導入
  事業場において労使協定を締結すれば、1ヶ月に60時間を超える時間外労働を行った労働者に対して、改正法の引上げ分(25%から50%に引き上げた差の25%分)の割増賃金の支払いに代えて、有給の休暇(年次有給休暇を除く)を付与することができます。

 なお、労働者がこの有給を取得した場合でも、従来の25%の割増賃金の支払いは必要です。
  【具体例-時間外労働を月76時間行った場合】
   ◇月60時間を超える16時間分の割増賃金引上げ分25%(50%-25%)の支払いに代えて、有給の休暇付与も可能。
   ◇ 16時間×0.25=4時間分の有給休暇を付与。

 
(3)割増賃金引上げなどの努力義務(限度基準告示)

 「時間外労働の限度基準」(平成10年労働省告示第154号:限度基準告示)により、月に45時間を超えて時間外労働を行う場合には、あらかじめ労使で特別条項付きの時間外労働協定を締結する必要がありますが、特別条項を定める要件に次の3点が追加されます。

 ① 特別条項付きの時間外労働協定では、月45時間を超える時間外労働に対する割増賃金率も定めること
 ② ①の率は法定割増賃金率(25%)を超える率とするように努めること
 ③ 月45時間を超える時間外労働をできる限り短くするように努めること

 
(4)年次有給休暇の時間単位での取得

 従来、年次有給休暇は日単位で取得することとされていましたが、事業場で労使協定をすれば、1年に5日分を限度として、時間単位で取得できるようになりました。
 この場合、年次有給休暇を日単位で取得するか、時間単位で取得するかは、労働者が自由に選択することができます (労働者が時間単位での取得を希望している場合に、使用者の判断で日単位の休暇を与えることはできないと言う意味です)。

 
3 おわりに                        
 平成22年は、本稿で述べました時間外労働の割増賃金率の改正のほかにも、「育児のための短時間勤務制度・所定外労働免除制度の義務化」や「介護のための短期休暇制度」の創設など、企業における労務管理に関する法改正が多くあります。いずれも、経営に大きく関わることですので、漏れのないように対応することが大切になります。

 

◆弁護士法人一新総合法律事務所 弁護士 五十嵐 亮◆
<初出:顧問先向け情報紙「こもんず通心」2010年5月15日号(vol.54)>
  

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