2011/08/09
法務情報
【判例情報】偽装請負と黙示の労働契約の成否(松下プラズマディスプレイ事件最判)
「偽装請負」という言葉はご存知でしょうか。
これは、主として製造業において、労働者を直接雇用したくない企業が、請負会社に雇用された労働者を、請負会社との請負契約に基づいて自社内で就労させ、直接具体的な指揮命令を行うものを言います。
本来の請負契約であれば、労働者は請負会社の指揮命令に基づいて仕事をしますが、そうなっていません。
実質は「労働者派遣」にあたりますが、平成16年3月1日より前は製造業への派遣は禁止されていたため、請負の法形式をとるこのような「偽装派遣」が見られ、社会問題となりました。
昨年(※平成21年)12月、松下プラズマディスプレイという会社(パナソニックの子会社です。)の「偽装請負」の事案で、最高裁から重要な判断が示されましたので、紹介します。
事案は、請負会社A社の従業員であったYさんが、平成16年1月から業務委託元であるプラズマ社の工場で同社の指揮命令下で就労していた。
平成17年に入り労働組合に加入して直接雇用を交渉するとともに、大阪労働局に「勤務実態が偽装請負」であると申告し、是正指導を受けて、同年8月以降はプラズマ社に半年間の期間労働者として直接雇用されるに至った。
そして平成18年1月で雇用期間が満了し、プラズマ社は労働契約の終了を通告したというものです(他に報復的な配置転換の論点もありますが、割愛します。)。
これに対し、Yさんはプラズマ社に対し、偽装請負を開始した時点でプラズマ社と「期間の定めのない黙示の(暗黙の)労働契約」が成立していたなどとして、雇用契約上の権利を有することの確認請求等を求めて提訴しました。
一審大阪地裁は、Yさんの地位確認請求を退けましたが、二審の大阪高裁は逆転判決でこれを認めました。
その論理は次のとおりです。
すなわち、A社とプラズマ社との請負契約及びA社とYさんとの契約は、実質的には労働者供給契約であり、当時は製造業派遣は一律に禁止されていたから、脱法的な労働者供給契約で職業安定法44条等に違反し、公の秩序に反するものとしてその締結当初から無効である。
そして、プラズマ社の従業員がYさんに直接指示して労務の提供を受けていたから、プラズマ社とYさんとは当初から事実上の使用従属関係があったと認められ、YさんがA社から受け取る給与は、プラズマ社からA社に支払った業務委託料からA社の利益を控除した額を基礎とするから、Yさんの給与額を実質的に決定していたのはプラズマ社である。
上記各契約が無効にもかかわらずプラズマ社とYさんとの実体関係を根拠づけうるのは両者間の「黙示の労働契約」のほかにはなく、その内容はA社とYさんとの契約における労働条件と同様である。
この大阪高裁は、相当なインパクトがありました。
しかし、最高裁は、平成21年12月18日、上記大阪高裁判決とは逆に、「黙示の労働契約」の成立を否定する判断を示しました。
最高裁は、事実関係としてYさんが派遣労働者の地位にあったこと、これが労働者派遣法に違反していたことを認めつつ、「労働者派遣法の趣旨及びその取締法規としての性質、さらには派遣労働者を保護する必要性等にかんがみれば、仮に労働者派遣法に違反する労働者派遣が行われた場合においても、特段の事情のない限り、そのことだけによっては派遣労働者と派遣元との間の雇用契約が無効になることはない」とし、本件では、プラズマ社はA社によるYさんの採用に関与していたとは認められず、YさんがS社から受けていた給与等の額をプラズマ社が事実上決定していたといえるような事情もなく、かえって、A社はYさんに配置転換を打診するなど、配置を含むYさんの就業態様を一定の限度で決定しうる地位にあったとし、その他の事情を総合しても、プラズマ社とYさんとの間で雇用契約が黙示的に成立していたとは評価できないと結論づけました。
この判決により、「偽装請負」や「派遣切り」で直接雇用を求める道は厳しくなりました。製造業派遣禁止の法改正の動きもありますが、またぞろ「偽装請負」へ移行する懸念もあります。
◆弁護士法人一新総合法律事務所 弁護士 今井 慶貴◆
<初出:顧問先向け情報紙「こもんず通心」2010年2月15日号(vol.48)>
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