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法務情報

2018/09/25

法務情報

ネット中傷への対応方法

その他弁護士中澤亮一

近年インターネット上の口コミサイトが人気を博していますが、そこに特定の個人や企業に対する中傷的なコメントを書き込まれるといった事案が後を絶ちません。

このような書き込みは、高い匿名性を背景として行われるがゆえに、対応も簡単ではないのが現状です。

しかし、ネット上の匿名性は完全ではない場合が多く、法的手段を用いて発信者の情報を得る(書き込み者を特定する)ことができますし、問題となっている書き込みの削除を求めることもできます。

 

今回は、主に口コミサイトにおいて中傷コメントが書き込まれたという事例を想定し、その対処法として、削除請求と発信者情報開示請求の概要をご紹介しようと思います。

 

 

削除請求

(1) 任意の削除依頼

一番手軽な方法としては、当該サイトの管理者等に対して、削除依頼をするというものがあります。

多くはサイトに削除依頼専用の依頼フォームが設けられています。

ただし、単にフォームから依頼を送ればそれでいいかというと、そうではありません。

 

①氏名

②連絡先(メールアドレス等)

③削除対象のURL等及び問題箇所の具体的指摘

④削除を求める理由

⑤生じた被害の程度

は、最低限記載すべきでしょう。

 

当該サイトに依頼内容の指示がある場合にはそれにしたがってください。

 

もっとも、任意の削除依頼をしても無視するようなサイトも多く、そればかりか削除依頼の内容を公表するようなサイトもあるようなので、手軽な反面、実際に削除してもらえるかは難しい部分もあります。

 

(2)テレコムサービス協会の書式による削除依頼

テレコムサービス協会とは、インターネットサービスプロバイダ(ISP)や回線事業者等を会員としている一般社団法人であり、プロバイダ責任制限法関連のガイドラインを公表しています。

 

同協会が公表している書式を使って削除を求めることもできます。

この場合は、「侵害情報の通知書兼送信防止措置依頼書」という書面を作成し、当該サイト管理者等に郵送することになります。

書式は「プロバイダ責任制限法 関連情報WEBサイト」(http://www.isplaw.jp)というサイトから、記入例付きでダウンロードすることができます。

 

(3)裁判手続

上記の書式を使った送信防止措置依頼をしても削除に応じない場合には、法的手段として削除仮処分を検討します。

 

仮処分とは、裁判の一種ではあるものの、通常裁判よりも迅速な手続により審理を行い、一定額の担保金の供託を条件として暫定的な措置を行うものです。

「仮」の処分ではありますが、この手続で削除が認められれば多くのサイトは削除に応じますし、一度削除されればその後に書き込みが元に戻るということもありません。

担保金の額は事案によりますが、30万円程度を求められることが多いようです。

 

仮処分決定を得るには、どの書き込みがどのように権利(人格権、著作権等)を侵害しているのか、すぐに削除されなければ権利回復が困難になるといった事情があるか(保全の必要性)、書き込みが違法ではないといい得る事情がないか(違法性阻却事由の不存在)等を主張する必要があります。

 

裁判手続では法的な知識が求められますので、この手段をとる場合には弁護士に依頼せずに行うのは難しいでしょう。

 

発信者情報開示請求

(1)大まかな流れ

一般ユーザーが書き込みを行う場合、書き込みデータはその者が契約しているISPのサーバーからコンテンツプロバイダ(当該書き込みをしたサイト)のサーバーという流れをたどりますので、この接続の順番を逆にたどり、契約者の個人情報の開示を求めていきます。

 

具体的には、①証拠保存→②コンテンツプロバイダへI Pアドレス等の開示請求(任意の請求、若しくは仮処分)→③ログの保存請求→④ISPへ契約者情報の開示請求訴訟という方法を順にとっていきます。

 

 

(2)①証拠保存から②コンテンツプロバイダへの請求まで

今後裁判等の手段をとる場合に備えて、当該書き込み及びその関連情報を証拠として保存しておきます。

スクリーンショットや紙への印刷で構いませんが、当該サイトのURL全体が明確に分かるようにしてください。

証拠を保存したら、まずは当該サイトの管理者等に対してIP アドレス、通信日時等の開示を求めます。

この段階では任意開示に応じるサイトも多いので、上記テレコムサービス協会の書式を用いて請求します。

応じない場合には仮処分を検討します。

 

(3)③ログ保存請求及び④ISPへの開示請求

I Pアドレスの開示を受けたら、「W h o i s」というサイトを使ってどのISPなのかを検索することができます。

ISPが明らかになったら、発信者情報開示請求訴訟を提起します。

ISPとしては自分の契約者の個人情報を開示することになるわけですから、任意開示にはほとんど応じてくれず、そのため訴訟を提起する必要があります。

 

ここで重要なのは、ISPのログ(通信記録)は一定の期間(早いと3 か月程度)が経過すると削除されてしまうため、訴訟提起に先立ってログの保存請求をしておく必要があるということです。

直接ISPに対して任意保存を求めるか、仮処分申立をしておく必要があります。

 

ISP側も訴訟では開示を争ってきます。

法的な主張を尽くす必要がありますので、訴訟対応は弁護士に依頼した方がよいといえるでしょう。

 

◆弁護士法人一新総合法律事務所 弁護士 中澤 亮一

<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2018年6月5日号(vol.221)>

※掲載時の法令に基づいており,現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。

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