2019/02/12
法務情報
NHKとの受信契約は受信機を持った者の義務!
新潟事務所、弁護士角家理佳、燕三条事務所、長岡事務所、新発田事務所、消費者、その他、企業・団体、東京事務所
NHKの受信契約を巡る裁判
テレビは持っていないけれど、ワンセグ機能付携帯電話は持っているという人も、NHKと受信契約を結ぶ義務があるとする高裁判決が、相次いで出されました。
また、平成29年12月6日には、NHKの受信契約について定めた放送法64条1項に関する最高裁の判決が出ました。
この裁判は大法廷で審理され、当時の法務大臣が「放送法は合憲である。」との意見書を提出する(国が当事者ではない訴訟で意見を述べたのは戦後2例目)など、注目を集めました。
最高裁の判断は、次のとおりです。
NHKの受信料制度ってどういうもの?
(1)放送法64条1項の意義
NHK の受信契約については、放送法64条1項は「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。」と規定していますが、最高裁は、これを、テレビ等を設置した者に対し、受信契約の締結を強制する旨を定めたものだとしました。
放送法が公共放送と民間放送の二本立ての体制としたのは、各々が長所を発揮し欠点を補うことで、国民の知る権利を充足し、健全な民主主義の発達に寄与することを目的としているからで、そのうちの公共放送事業者としてNHKを設立した、そして、NHK が特定の個人や団体等から財政面での支配や影響を受けないように、公平に受信料を負担させる仕組みとしたことは合理的である、というのがその理由です。
(2)放送法64条1項の合憲性
テレビ等を設置したらNHK と契約して受信料を支払うことが義務付けられるというのは、契約の自由や財産権を侵害し、憲法に違反するのではないかと思う方もいると思います。
しかし、最高裁は、放送法は、NHK の目的にかなう適正・公平な受信料徴収のために必要な内容の契約の締結を強制するものであって、憲法に反しないとしました。
(3)受信契約の成立時期
では、テレビ等を設置した人とNHK との契約はいつ成立するのでしょうか。
この点について最高裁は、NHKからの受信契約の申込みに対して、テレビ等の設置者が承諾の意思表示をした時、設置者が承諾をしない場合には、NHK がその人に対して承諾の意思表示を命ずる判決を求め、その判決が確定した時に契約が成立するとしました。
つまり、テレビ等を設置しただけ、あるいはNHK からの一方的な申込みによって契約が成立することはないということです。
(4)受信料はいつの分から支払わなければならないか
テレビ等の設置時期より遅れて受信契約が成立した場合、設置者はいつの分からの受信料を支払わなければならないかが次に問題になりますが、裁判所は、テレビ等を設置した月からの分を支払う必要があるとしました。
その理由は、受信料は、受信設備設置者から広く公平に徴収されるべきものであり、同じ時期に受信設備を設置しながら、設置後速やかに受信契約を締結した者と、その締結を遅延した者との間で、支払うべき受信料の範囲に差異が生ずるのは公平ではない、ということでした。
(5)受信料債権の消滅時効の起算点
では、その受信料債権の消滅時効(5年)はいつから進行するかですが、最高裁は、受信契約が成立した時から進行するとしました。
そうすると、受信契約を締結した人が、5年以上受信料の支払いを怠った場合は、支払い期から5年以上経過した分については、支払わなくてよくなる可能性がある一方、一度も受信契約をしたことのない人は、契約が成立すると、テレビを設置して以降のすべての期間の受信料を支払うことが必要になります。
これは不公平にも思えますが、裁判所は、この点については、受信契約を締結する義務を負いながら締結をしなかった者が、契約を締結した者と異なる扱いになるのはやむを得ないと言っています。
ワンセグ機能付携帯の受信契約
さて、冒頭に紹介したワンセグ携帯についての裁判では、放送法64条1項の「設置」に、ワンセグ機能付携帯電話の「携帯」も含まれるかが争点になっています。
これについて、高裁は、「設置」は、受信機を管理・支配するという観念的・抽象的な概念であるとか、物理的に置くことに限らずNHK 放送を聴取可能な状態におくことも含まれる等とし、携帯型受信機を携行する場合も受信契約を締結する義務があるとしました。
この件は現在、上告審係属中ですが、最高裁も高裁の判決を維持する見通しが高いとみられています。
ただ、放送法の規定は、義務を課す規定としては明確さに欠ける面があることは否めず、法改正による解決が望ましいとする意見もあるところです。
今後の動向
先の最高裁判決が出たことで、今後、テレビ等を設置しながら契約締結を拒否する人に対して、NHKが訴訟を提起する件数が増えることが予想されます。
しかし、最高裁が「NHKの財政的基盤を安定的に確保するためには、NHKが受信設備設置者に対し受信契約の締結に理解が得られるように努め、これに応じて受信契約を締結する受信設備設置者に支えられて運営されていくことが望ましい」と述べているとおり、NHKには訴訟提起の前に、未契約者に対して根気よく説得を試みる努力が期待されていると言えるでしょう。
◆弁護士法人一新総合法律事務所 弁護士 角家 理佳
<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2018年9月5日号(vol.224)>
※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。
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