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法務情報

2019/03/18

法務情報

知的障害のある社員に対する「馬鹿でもできる」発言は違法か?~東京地裁平成29年11月30日判決~

新潟事務所労働燕三条事務所弁護士五十嵐亮長岡事務所新発田事務所上越事務所企業・団体東京事務所

事案の概要

知的障害のある男性Xは、スーパーを営むY社のベーカリー部門にて、週5日、午前中のみパートタイマーとして勤務していました。

 

Xは、知的障害のため、集中力が途切れやすく、記憶力が健常者に比べて低いといった特性があるため、陳列作業、天板清掃、調理器具の洗い物、商品の袋詰めを担当していました。

 

Y社は、障害者就労・生活支援センターとXの就労状況について情報共有を行っていました。

 

そのような中、同じ職場に勤務する女性従業員Aから、「幼稚園児以下」、「馬鹿でもできるでしょ」等の発言を受けたことを理由に、Y社に対し、不法行為に基づく損害賠償請求を行いました。

 

Xは、その他、事実関係の調査・再発防止策を講じる安全配慮義務違反(事後対応義務違反)及び障害者の安定した雇用継続を図るべく職場環境の整備を尽くす安全配慮義務違反(就労環境整備義務違反)も主張しました。

 

 

 裁判所の判断

Aの発言は不法行為に当たるか?

裁判所は、AがXに対し、「幼稚園児以下」、「馬鹿でもできるでしょ」という発言を複数回行ったと認定し、不法行為に当たると判断しました。

 

また、Y社は、使用者責任(民法715条)に基づき22万円の損害賠償責任を負うと判断しました。

 

事後対応義務違反に当たるか?

Xは、店長が、Aからの発言があったことを人材開発部に報告しなかったことを持って事後対応義務違反に当たると主張しました。

 

しかし、裁判所は、店長がAらに対して事実関係を確認し、Aに対し「他人と比較するような発言をしてはいけない」旨の注意をしていたとして、事後対応義務違反には当たらないと判断しました。

 

就労環境整備義務違反に当たるか?

裁判所は、Y社では、各店舗にサービス介助士の資格を有する者を配置していたこと、Xの適性を考慮してベーカリー部門に配置していたこと、ベーカリー部門では、店長の下、従業員が協議してXに対応していたこと、連絡ノートを使ってXの家庭と情報交換をしていたことを理由に就労環境整備義務違反には当たらないと判断しました。

 ポイント

本件で不法行為とされた「幼稚園児以下」、「馬鹿でもできるでしょ」という発言は、明らかに人格を否定する発言であり、Xが障害者でなくても不法行為に当たると判断されたものと思われます。

 

他方、事後対応義務違反及び就労環境整備義務違反については会社の責任を否定しており、障害者雇用をしていくうえで今後の実務の参考になる裁判例といえると思います。

 

◆弁護士法人一新総合法律事務所 弁護士 五十嵐 亮

<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2018年11月5日号(vol.226)>

※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。

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