2019/04/17
法務情報
勤務成績・態度不良等を理由とする解雇~東京地裁平成29年4月19日判決~
企業・団体、労働、弁護士五十嵐亮、新潟事務所、長岡事務所、上越事務所、燕三条事務所、新発田事務所、東京事務所
登場人物
X(原告)・・・大学卒業後MBAを取得。複数の会社での勤務経験があり。「マーケティング&デジタル・コミュニケーションズ・スペシャリスト」の職位で、年間基本給850万円、変動セールスコミッション127万5000円で雇用。
Y(被告)・・・人工内耳システムの輸入販売を営む会社。従業員は約28名。
解雇事由
・本社の方向性に対する理解に関し問題点を指摘
→問題点を認識せず、改善の意思なし
・部長の承認を得ず社長に業務上の提案をするなど、部長とのコミュニケーションについて改善を要望(警告書)
→部長に対し大声を上げたり、人事担当者に苦情を述べるなどの対応
・業務プランの提出、本社の関係者を尊重して信頼関係を築くような行動をするよう指示(指示書や口頭)
→職務に関する指示をすることは不当であるとして指示に従わなかった
・最後通告として、態度や行動を改善しなければ解雇されることを含めて指摘(警告書)
→社長の考え方は理性的ではなく、期待されている結果がわからないと回答
解雇事由に該当するか?裁判所の判断
裁判所は、①Xには、組織の一員として円滑かつ柔軟に適応する考えがなく、再三の指示、指導、警告にもかかわらず一向に改善の意欲を示さずに職制を無視した自己中心的な態度をとり続けたこと、②指示された具体的なプランを示さないなど明確な服務規律違反も認められることを理由に解雇事由ありと判断。
適切な注意指導はなされていたか?
裁判所は、Xは20年以上にわたる社会人経験があり、Y社では相応の待遇を受けていたこと等に鑑みれば、自身で自ら行動を規律すべき立場にあり、改めて注意しなければならないような事柄ではないと判断。
解雇以外の手段はなかったか?
Xに対して警告書や指示書等書面での警告等を含めて何度も改善の機会を与えた指示・警告をしたにもかかわらず、Xに改善の意思が見られなかったことや勤務態度等に照らすと、配置転換等によって問題が解決するという事態は想定しがたいとして、配置転換を検討せずに解雇したとしても違法ではないと判断。
ポイント
裁判例上、勤務態度不良等を理由とする解雇が有効となるケースは、少数です。
本件は、度重なる指導・警告にもかかわらず、Xが従わず、反抗的態度をとったことが重視され、解雇有効との判断に至っています。
裁判所としては、解雇の前提として注意・指導を徹底して尽くし、それでもなお改善の見込みがないと判断されなければ、解雇は有効とはならないとの考え方です。
注意指導の在り方についても、「解雇ありき」の指導ではなく、本当に改善するための指導を尽くしたかという点が判断されます。
◆弁護士法人一新総合法律事務所 弁護士 五十嵐 亮
<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2018年5月5日号(vol.220)>
※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。
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