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法務情報

2011/06/14

法務情報

【法律相談】名ばかりの管理職

労働長岡事務所弁護士佐藤明

Q.私は、この春、管理職に昇進しました。役職手当がついたものの、今までも残業時間も多い仕事でその残業代がもらえなくなったことから、給与全体で比較すると前より実質的に給与が下がった状況です。これでは、昇進の意味がありません。待遇の改善を求めることはできないのでしょうか。

 

A.
(1)まず、労働基準法は、使用者に、労働者に労働させるにあたっては、その労働時間、休憩、休日につき、一定の制限や付与を課しており(第4章)、労働者を過酷な状況から保護することを目的としています。

 
 また、例外的に残業や休日出勤があれば、割増賃金を支払うものとされています(37条)。

 
 しかしながら、このような労働時間・休憩・休日の原則に対して例外とされている一つが、監督若しくは管理の地位にある者(管理・監督者)です(41条2号)。

 
(2)この管理監督者に当たるかどうかについて、一般には部長、工場長等労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者の意であるが、名称にとらわれず、その職務と職責、勤務態様、待遇など実態に即して判断すべきとの労働基準局等から通達が出されていました。

 
 さらにその判断要件として、行政実務や裁判例では、①事業主の経営に関する決定に参画し、労務管理に関する指揮監督権限を認められていること、②自己の出退勤をはじめとする労働時間について裁量権を有していること、及び③一般の従業員に比しその地位と権限にふさわしい賃金上の処遇を与えられていることが、満たされている必要があるとされています。

 
 なお、近時、訴訟で争われたマクドナルドの店長の案件(東京地裁平成20.1.26判決)では、上記3つの要件をいずれも満たしていないとして、管理監督者に当たらないとされたわけですが、店長の厳しい勤務実態が浮き彫りになった事件といえそうです。

 
(3)もっとも、このような要件が適用されるとしても、それ自体抽象的な面があることはいなめず、厚生労働省(労働基準局長)は、最近新たに、「多店舗展開する小売業、飲食業等の店舗における管理監督者の範囲の適正化について」と題する通達を出しました(詳しくは、厚生労働省ホームページ)。

 
 それには、より具体的な判断要素として、管理監督者性を否定する重要な要素として①職務内容、責任と権限については、たとえば、アルバイト・パート等の採用について責任と権限がないことなど、②勤務態様については、遅刻早退等により減給の制裁など不利益な取扱いがされること、③賃金等の待遇については、たとえば、時間単価換算した場合にアルバイト・パート等の賃金額に満たないなどが示され、さらに、その補強要素として②については、たとえば、長時間労働を余儀なくされるなど、実際には労働時間に関する裁量がほとんどない、③について、たとえば、役職手当等の優遇措置が割増賃金が支払われないことを考慮すると十分でなく労働者の保護に欠けることなど、かなり踏み込んだ内容となっています。

 
 それ以外の業種について示したものではないにせよ、さまざまな業種にも影響のある通達と考えられます。

 
(4)以上からすれば、企業が、単に賃金の抑制のために、管理職の地位を利用することが許されないのは当然でしょうし、本件でも、従業員は会社に待遇の改善を求めることができるものといえます。

 
 また、長時間労働等厳しい労働条件を課していないかどうか企業自らが、就業規則等を再点検する必要に迫られているといえるでしょう。

 

◆弁護士法人一新総合法律事務所 弁護士 佐藤 明◆
<初出:顧問先向け情報紙「こもんず通心」2008年10月号(vol.32)>

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