2011/08/09
法務情報
【法務情報】弁護士の数が増えると…
皆さんは,「司法制度改革」という言葉をご存知でしょうか。
古い話ですが,平成13年に司法制度改革推進法というものが成立しました。
その中味を分かりやすく言いますと,今まで,住んでいる人も少なく,滅多に国民の皆さんから訪問してもらうことも無かった,みすぼらしいと言ってもいいような「司法の家」を,この際,思い切って建て替えることにし,その基礎をできるだけがっちりと組み立て,大きな家にして,そこに入ってくる人を大幅に増やし,その「司法の家」は,使い勝手もよく,住み心地もいいものにして,そのなかには,国民の皆さんからもたくさん入ってもらって,どしどし使ってもらうようにしよう,という壮大な計画でした。
「そこに入ってくる人を大幅に増やし」という意味は,まずは,裁判官や検察官,弁護士という法律家の試験(司法試験)に合格する人を当時の500人からどんどん増やし,最終的には,2010年で3000人を目指すと言うものでした。
2009年には,合格者は2000名ぐらいにはなりましたが,とても3000人にまでにはいきそうにもありません。
その原因にはいろいろありますが,一つは弁護士になる人だけが増えて,裁判官や検察官に採用される人がちっとも増えなかったからです。裁判官は昔と同じ毎年100人程度,検察官は80人程度です。これでは500人時代と変わりません。私たち500人時代の弁護士は,毎年300人から350人程度が弁護士になっていったのに,今や昨年(※2009年)で1800人に近い人たちが弁護士になっています。
平成10年ころ,私と今井先生は古島弁護士を入れて3人の弁護士で事務所を運営していました。本当は,私も今井先生も,もっと集まって欲しい,一緒に事務所を大きくしたいと司法試験に合格した修習生を求めていたのですが,入ってもらえず,なかなか増えませんでした。
ところが,合格者が1000人,1500人,2000人と増えてきましたら,裁判官・検察官は増えませんから,我が社にもどんどん修習生が集まってくれました。これは,一つの成果です。
ところが,修習生の方はどうかと言いますと,今や就職難です。
先日も新潟のタクシーに乗ったら,裁判所から乗ったせいもあると思いますが,「弁護士さんですか」と聞かれ,「自分の甥が弁護士になりたいらしいですが,就職が大変なんですってね」と言われました。
我が社は大勢の弁護士が入ってくれて,皆さんにも大いに使ってもらえます。
制度としても捜査段階の国選弁護人制度もできるようになりましたし,裁判員裁判も若い弁護士が一生懸命やってくれています。経済的に困難な人たちの事件も,急激に拡大しています。
こうしたプラス面の一方で,サラ金から過払い金を取り戻すだけの仕事を全国から集めたり,新聞チラシで駅前にそういう人を集めたり,果ては空港で事情を聞いて過払いだけを扱うという事務所も出てきました。過払い金が無いと分かると,地元の弁護士にやってもらえと追い返したりすることもあるそうです。こうなると,金目当て弁護士は軽蔑されます。
日本の先を行っているアメリカでは,弁護士はちっとも尊敬されていません。
あるハイジャックのジョークに,ハイジャック犯が「俺たちの要求を飲まないと,飛行機の中にいる弁護士たちを1人づつ釈放するぞ!」と脅かしたという話があります。新型インフルエンザのばい菌か爆弾のように,弁護士が嫌われているということです。ここまでとなると「司法の家」を大きくした意味がまったくありません。
今、私たちは,苦しみながら新しい弁護士の人たちの仕事や就職を開拓し,新しい弁護士たちも,昔の弁護士たちよりも待遇が悪くなっても一生懸命仕事をやろうとしています。
「司法の家」を大きくして良かったと誰から言ってもらいたいのか,と言えば,それは,この日本社会に住んでいる皆さんからです。威張らない,優しい,分かりやすい,そして費用も納得できる,そういう弁護士が増える…それが「司法の家」を大きくする目的でしたから。
◆弁護士法人一新総合法律事務所 弁護士 和田 光弘◆
<初出:顧問先向け情報紙「こもんず通心」2010年2月号(vol.47)>
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