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2020/05/25

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中澤亮一弁護士の法律コラム「暴行罪と傷害罪はどう違う?」

新潟事務所燕三条事務所長岡事務所新発田事務所上越事務所その他東京事務所弁護士中澤亮一

中澤亮一弁護士の法律コラムです。

今回のテーマは『暴行罪と傷害罪はどう違う?』です。


1 はじめに

ニュースなどで、「暴行罪」「傷害罪」という言葉はよく耳にすると思います。

いずれもよく似た犯罪ですが、どのような違いがあるのでしょうか。

2 暴行罪とは

⑴ 暴行罪は、「暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったとき」に成立します(刑法208条)。

簡単にいうと、暴力を振るったけど怪我をしなかった、というような場合に成立するのが暴行罪です。

2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料が科されます。

 

正確な定義も確認しましょう。

「暴行」とは、他人の身体に対する有形力の行使をいい、「傷害」とは、身体の生理機能の障害または健康状態の不良な変更を意味します。

どちらも難しい言い回しですが、このように解釈されています。

 

 「暴行」は、殴る蹴る等のいわゆる暴力が含まれることは当然ですが、音、電流、光等の物理力を行使する場合も含まれ、古い判例では、被害者の耳元で大太鼓を叩いた行為が暴行罪とされた例もあります。

 

⑶ また、相手の体に接触していなくても、「暴行」にあたることがあります。

例えば、脅かす目的で石を投げたが当たらなかった場合などです。

最近話題となっている自動車のあおり運転も、危険な方法での運転(並走中の自動車の幅寄せ行為、追越行為、割り込み行為など)それ自体が有形力の行使、すなわち暴行であるとして、暴行罪が成立する場合があります。

これはニュースで聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれませんね。

あおり運転は道路交通法違反に問われることは当然ですが、暴行罪になることもあるのです。

3 傷害罪とは

⑴ 傷害罪は、「身体を傷害した者」に科されます(刑法204条)。

15年以下の懲役又は50万円以下の罰金です。

傷害といっても千差万別なので、刑の幅も広く定められています。

 

 「傷害」は、先ほど述べたとおり、身体の生理機能の障害または健康状態の不良な変更を意味します。

これだけだとよくわかりませんが、つまり、創傷(切り傷)、擦過傷(擦り傷)、打撲傷といった外傷だけでなく、めまい、嘔吐、失神、病気、外傷後ストレス障害なども、「傷害」に含まれるということです。

いわゆる「怪我」だけではないのですね。

 

⑶ また、傷害は暴行によって生じることが多いでしょうが、暴行によらない傷害の場合も、傷害罪が成立することがあります。刑法204条に、「暴行によって」といった文言がないことからも、これがわかります。

たとえば、いやがらせ行為により不安及び抑うつ状態に陥れた場合や、自分が病気であることを知ったうえで故意に病気をうつした場合(ただし厳密には学説上争いがあります)は、傷害罪が成立します。

長期間にわたってラジオやアラーム音を大音量で流し続け慢性頭痛症にさせた場合も、暴行によらない傷害として傷害罪が成立することがあります。

この代表例が「騒音おばさん」事件です。

奈良県に住む被告人の女性が、トラブルとなっていた隣人に向けて大音量のラジオ等を流し続けて、精神的ストレスを負わせ慢性頭痛症等にしたというものです。

被告人の女性は最高裁まで争ったようですが、最高裁は、

 

「自宅から隣家の被害者に向けて、精神的ストレスによる障害を生じさせるかもしれないことを認識しながら、連日連夜、ラジオの音声及び目覚まし時計のアラーム音を大音量で鳴らし続けるなどして、被害者に精神的ストレスを与え、慢性頭痛症等を生じさせた行為は、傷害罪の実行行為に当たる」

 

としています。

4 結論

このように、暴行罪と傷害罪の違いは、わかりやすくいえば、「暴行によって相手が怪我をしなかったら暴行罪」「怪我をしたら傷害罪」ということになります。

 

弁護士:中澤亮一


<参考文献>

西田典之『刑法各論 第四版補正版』弘文堂

騒音おばさん事件の部分、判例秘書Internetの判決要旨を引用

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