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法務情報

2011/07/19

法務情報

【法律相談】介護と事故

ビジネス長岡事務所弁護士佐藤明

 高齢化社会となり、介護施設で生活される方も多くなってきています。

 
 そのような施設で、たとえば、入居者が食事などで誤って飲み込んだりして、事故が起きることがありますが、その際の責任について検討したいと思います。

 
<解説>
1 施設入居者の方は、心身の不自由のため、その施設での介護に自らの安全が委ねられているといえます。

 
 そこで、施設が、その事故による責任を負うかどうか、法律上、介護施設が入居者に負う安全配慮義務に違反していないか(債務不履行)、あるいは事故が不法行為にあたらないかが問題となります。

 
 なお、直接の介護者に不注意があった場合には、介護者自身の不法行為責任だけではく、それを指揮監督している介護施設に使用者責任が認められるかも問題となりえます。

 
2 細かい点について深入りできませんが、いずれの法律論を前提としても、とくに問題となる点として、まず、施設側に事故についての予見可能性があるかどうかです。

 
 施設側、介護者側においては、高齢者などは、当然介護の必要があって入居しており、体の不自由な点について、状況の把握をしておく必要があるので、入居者が、たとえば、高齢者において飲み込みや咀嚼がうまく行かないことを把握しておくことが考えられます。さらに、具体的に、食事中、高齢者が苦しみ無呼吸となったり、加えてチアノーゼ(皮膚、唇などが青紫になるような状態)を起こせば、誤嚥を生じていると認識しうるでしょう。そうであれば、予見可能性が認められると考えられます。

 
 次に、結果回避義務(あるいは安全配慮義務)に違反していないかが問題となります。

 
 介護者、施設側としては、誤嚥に直ちに気づけば飲み込んだ物の除去をすべきであり、それでも対応できなければ、救命救急措置を講じる必要があるといえますが、一刻を争うケースも多く、介護者においては、早急に、医療機関への引継ぎ、救急車を呼んだり病院搬送をすることで、自らの義務は尽くされたと考えられるでしょう。(なお、これに続く医師の注意義務については、別に難しい問題(医療事故の問題)を含んでいます。)

 
3 その上で、その結果についての他の要件(因果関係、損害など)を吟味して、施設側の責任の有無が判断されるといえます。ただ、それぞれの要件において、入居者の障害の程度(認知症の進み具合、要介護度など)も影響し、個別の事情にかなり左右されるでしょう。
 

 なお、介護施設の立場からして、介護目的からすれば、高齢者・入居者の快適かつ自由な生活を確保すべきところであり、その自由を不当に奪うようなことがあってはならないでしょうから、徒に事故や責任に目を向けすぎることも問題を含んでいるかもしれません。

 
 また、このような事故が、重大な結果を生じることも少なくなく、施設側がその責任を負うことが難しい場合に備え(被害者救済のためにも)、損害保険(任意保険)が開発されていることからすれば、当該保険の内容を吟味しておくことも重要といえます。

 

◆弁護士法人一新総合法律事務所 弁護士 佐藤 明◆
<初出:顧問先向け情報紙「こもんず通心」2009年9月号(vol.42)>

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