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2022/02/04

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成人年齢の引下げと消費者被害の増加(弁護士:長谷川 伸樹)

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この記事を執筆した弁護士
弁護士 長谷川 伸樹

長谷川 伸樹
(はせがわ のぶき)

一新総合法律事務所 弁護士

出身地:新潟県村上市
出身大学:神戸大学法科大学院修了

新潟県弁護士会裁判官選考検討委員会委員長などを務める。

主な取扱分野は、交通事故、債務整理、労働問題。そのほか相続、離婚など幅広い分野に対応しています。
事務所全体で300社以上の企業との顧問契約があり、複数の企業で各種ハラスメント研修の講師を務めた実績があります。

1 成人年齢引下げと消費者被害

令和4年(2022年)4月1日より、改正民法が施行され、成人年齢が18歳に引き下げられます。

 

成人年齢の引下げにあたって、「消費者被害が増加する危険性がある」と指摘されるのを目にします。

なぜそのような指摘がなされるのでしょうか。

 

2 「意思表示」に関するルール

民法の規定では、原則として、成人になると法律上単独で有効な意思表示が可能になるという考え方が採られています。

他方、未成年者は、保護者(親権者、未成年後見人等)の同意がないと完全な意思表示ができないものと規定されています。

「完全な意思表示ができない」とどうなるかというと、保護者の同意がなかったことを理由に、意思表示を取り消すことができます。

 

意思表示を取り消すことができれば、契約は最初から成立しなかったことになりますので、契約の相手方に対して高額の代金などを支払う必要がなくなるのです。

 

3 法律上の「意思表示」とは

 

では「意思表示」とはなんなのかという点について説明します。

 

例えば、買い物をする際には、『これを売ってください。』という「申込み」と、『はい、この物を売ります。』という「承諾」が合致して初めて売買契約が成立することになります。

契約が法律上有効に成立すると、代金支払義務や物の引渡義務が発生することになります。

上記の「申込み」や「承諾」が意思表示であると考えられています。

有効な意思表示が根拠となり、法律上の権利や義務が発生することになります。

 

あまり意識したことはないかもしれませんが、コンビニやスーパーでの買い物の際にもこのようなやりとりがあって物の売買契約が成立しています。

より厳格に意思表示の証拠を残すために作成されるものが契約書になります。

契約書に署名押印をすることで、書面記載の内容で意思表示をしたということが目に見える形として残ることになります。

 

4 改正民法と意思表示の関係

改正民法施行以降は、18歳以上の方が成人と扱われることになるため、18歳以上の方であれば法律上単独で有効な意思表示をすることが可能となります。

 

極端な話をすれば、18歳になった高校3年生であれば、保護者の同意を得ることなく、単独で、ローンを組んで自動車を購入する契約をすることもできますし(信用が認められるかの問題はあります。)、たとえ消費者に不利な契約であっても単独で有効に成立させることができることとなります。

そして、その契約は簡単に取り消すことはできなくなります。

 

5 未成年者でも有効な意思表示ができる場合

ちなみに、未成年者がした意思表示であっても取り消すことができないものもあります。

それは、お小遣いの範囲内での買い物です。

コンビニでも中高生は単独で買い物をしていますし、店舗側も保護者の同意の有無を確認することはありません。

 

6 消費者被害増加の懸念

上記をまとめると、今後は18歳を超えていれば民法改正により意思表示を簡単に取り消すことができなくなります。

「成人年齢が引き下げられることで消費者被害が増加する危険性がある」というのは、取り消すことができる意思表示の範囲が狭くなることを意味しているものと思われます。

 

7 社会構造との関係

もっとも、現実には、年齢を問わず甘言に惑わされ消費者被害に遭うことはあります。

現在、情報へのアクセスが非常に容易になるとともに、契約の内容や悪徳業者の手口は複雑さ、巧妙さを増すばかりのため、消費者が損をするだけのような契約や仕組みも多々存在し、そのすべてを把握し理解するのは、たとえ現在の成人であっても困難です。

 

このような社会情勢も相まって、成人年齢引き下げによって消費者被害が増加するとの懸念が生じたものと思われます。

しかし、現実としては、若年層のみの問題ではなく、いつ自分が消費者被害に遭ってもおかしくないということを肝に銘じる必要があります。

そのような危機感どのように新成人に伝えていくかが今後の課題であると考えます。

 

弁護士:長谷川伸樹

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