2022/06/06
法務情報
最高裁判所が違憲判決を出しました!
新潟事務所、燕三条事務所、長岡事務所、新発田事務所、上越事務所、コラム
1 はじめに
今回は、憲法のお話です。
2022年5月25日、最高裁判所は、在外邦人(外国に居住する日本人)に最高裁判所裁判官の国民審査を認めていない法律は、憲法に違反するとの判決を言い渡しました。
日本国憲法が1947年5月3日に施行されてから75年となりますが、違憲判決が言い渡されるのは、今回を含めて11件となります。
今回は、滅多にみられない違憲判決がありましたので、法律が憲法違反と判断されることの意味と、今回の判決の意義を説明していきたいと思います。
2 法律が憲法違反となるのはどうして?
法律が憲法に違反する、というのはどういう意味なのでしょうか。
その説明の前に、まずは、どうして法律が必要なのかについて簡単に説明します。
私たちは、常日頃、様々な社会活動・経済活動を行っています。
もちろん、自由な活動は大切ですが、無制限に自由な活動を認めると社会が混乱しますので、法律をもって規制するわけです。
例えば、車の運転を自由きままに認めると危険ですから、道路交通法によって免許を持つ人だけに運転を認め、交通ルールを定めているわけです。
このように、法律は、人の自由な活動を一定程度制限することで社会の秩序を維持していると言えるわけです。
では、どうして、社会の秩序を維持してくれている法律が、憲法に違反することになるのでしょうか。
法律を制定するにあたっては、様々な人の利害対立を調整する必要がありますので、ある人にとっては便利(有益)な内容であっても、他の人からみれば不便(不利益)な内容となっていることが通常です。
その是非は別にしても、法律によって利害調整を図られるわけです。
法律は、国会で制定されるわけですが、私たち国民の選挙による国会議員の多数派によって決定されるため、多数派の意向に沿った内容になることが多いのが実情です。
結局、どのような制度・規制によって日本の秩序を維持するのか、多数派の意見によって政治的に決められるわけです。
もし、現在の制度や規制に不満があるのであれば、政治活動によって多数派となり、あるいは多数派に働きかける等の政治的な活動によって実現する必要があるわけです。
これが民主主義の根幹ともいえる原理原則と言えます。
ただ、このような民主主義の原理原則は、多数派が、言わば「数の力」によって、少数派の自由を、許容できない程度にまで制限する危険を含んでいます。
その歯止めとなるのが違憲審査という仕組みです。
憲法によって国民の人権を保障し、国会や行政から独立した裁判所によって国民の人権がきちんと保障されているのかをチェックして、もし許容されない事態に至っていれば、裁判所が「憲法違反」という判断を示して、法律を無効にする仕組みを取り入れたわけです。
つまり、「数の力」により制定される法律は万能ではないので、少数派の人権を憲法をもって保障し、裁判所によりチェックさせることにしたわけです、分かりやすい例を挙げますと、第2次世界大戦前、ナチスドイツは、法律によってユダヤ人を迫害したわけですが、今では許されないことが当たり前のはずのユダヤ人迫害が、「法律」の名の下で実際に行われていたわけです。
もし、憲法によって人権がきちんと保障され、裁判所によるチェックがきちんと行われていれば、ユダヤ人迫害という悲惨なことにはならなかったかもしれません。
法律が憲法に違反することを認める仕組みを「違憲審査の制度」とも呼ばれますが、この仕組みは、私たちの人権を護るうえで、とても重要であると言えるわけです。
3 どのような憲法違反があったの?
とは言え、憲法違反の判断は、極めて限定的であるのが実情です。
全国では、民事訴訟だけでも毎年47万件以上の新規案件が受け付けられていますが、違憲判決は、過去11件に過ぎず、いかに数が少ないかが分かります。
ただ、それは当然の話であり、安易に憲法違反を認めると、国民によって選ばれたわけではない裁判所(裁判官)が制度設計に関与する結果となり、民主主義に反してしまうからです。
そのため、違憲判断は、限定的になっているわけです。
過去、どのような違憲判断があったのか、少し触れたいと思います。
有名なところとしては、衆議院議員選挙において「一票の格差」が著しい程度にまで格差が広がっているとして、過去に2回、憲法違反の判断がなされています。
また、身近の違憲判決として、離婚等により婚姻を解消した女性の再婚が禁止される期間について、以前は6ヶ月との制度でしたが、100日を超える制限は過剰であるとして憲法違反とされました。
この判決を受け、2016年12月からは、婚姻解消から100日を経過していれば再婚が認められることになりましたが、それ以前の女性には、6ヶ月間の再婚禁止となっていたわけです。
「憲法違反」と聞くと、「自分には無関係の話」と思われるかもしれませんが、意外と身近な問題にも関わっているわけです。
4 今回の違憲判決の意義は?
今回の違憲判決は、「外国に居住する日本人(在外邦人)について、最高裁判所裁判官の国民審査が認められない現在の法律は憲法違反である」と判断されたものです。
実は、在外邦人の方に関する違憲判断は2例目で、2006年9月14日、最高裁判所は、在外邦人に国政選挙における選挙権行使を認めていなかった当時の法律を、憲法違反と判断しました。
つまり、在外邦人の方については、一度目は国政選挙の選挙権行使について、二度目は最高裁判所裁判官の国民審査権行使について、それぞれ違憲判決が出されたという事になるわけです。
さて、この度の違憲判決に関する最高裁判所裁判官の国民審査について簡単に説明します。
この審査制度は、司法のトップである最高裁判所の裁判官を罷免するかどうかを審査するものとなります。
衆議院議員選挙の際、選挙の投票用紙とは別に裁判官の名前が列記された用紙が配布され、罷免したい裁判官の欄に×印を付ける方法で審査することになります。
あくまで罷免したい裁判官に×印を付けるもので、信任したい裁判官に〇印を付けても無効になるので注意が必要です。
では、どうして最高裁判所の裁判官について国民審査の制度が用意されているのでしょうか。
先に述べたように、裁判所は、国会で制定された法律を憲法違反として無効にすることができますし、逆に、法律を憲法違反でないとして有効と判断することができる機関となります。
その意味で、裁判所のトップである最高裁判所の裁判官が、法律が憲法に適合するかどうかをきちんとチェックして、国民の人権を護っているかどうかを、国民に審査させるために審査制度が用意されたわけです。
国民審査の制度は、憲法に明記されていますし、国民の人権を護るために重要な制度であることから、最高裁判所は、外国に居住していることだけを理由に、国民審査権が認められない現在の法律は憲法違反であると判断したことに、重要な意義があると考えられます。
5 この度の違憲判決を踏まえて思うこと
違憲判決は、一度制定された法律の効力を無効と判断し、国会に対して速やかな是正を求める効果がありますので、非常に重大な影響があります。
過去11件の違憲判決があると説明しましたが、選挙権の「一票の格差」に関わる判断が2件、在外邦人の選挙権行使に関わる判断が1件、この度の在外邦人の最高裁判所国民審査権に関わる判断が1件となっており、選挙制度に関わる違憲判決が多いのが分かります。
これは、選挙制度・国民審査制度が、民主主義の根幹に関わる重要なものであるとの考えが根底にあるのだろうと思います。
他方、現実を見ると、国政選挙の投票率は50%前後と低水準で推移していますし、国民審査によって罷免された裁判官は過去に誰もおらず、形骸化しているとの指摘されているような状況です。
国民の“無関心”とも言える事態とも言えると思います。
ですが、このような“無関心”の事態が続けば、民主主義の名の下に国民の人権が脅かされるかもしれません。
人権が保障されるべきことは当然ですが、国を動かしているのは同じ人間なわけですから、国民一人一人が関心を持ち、選挙なり国民審査なりの制度に関わることで人権を護っていく必要があるわけです。
国民審査の制度で言えば、審査対象となっている最高裁判所の裁判官が、過去にどのような判断を示したのか、少しでも知ることが審査制度を活用する一つの行動になると思います。
そして、国民審査を形骸化させずに活用することは、回りまわって私たち国民の人権を護ることにつながることを意識する必要があるわけです。
今回の違憲判決は、そのような課題を考えるきっかけとして受け止めるべきものだろうと思うところです。
◆弁護士コラム一覧はこちら
◆相談のご予約・お問い合わせはこちら
【ご注意】
◆記事の内容については、執筆当時の法令及び情報に基づく一般論であり、個別具体的な事情によっては、異なる結論になる可能性もございます。ご相談や法律的な判断については、個別に相談ください。
◆当事務所は、本サイト上で提供している情報に関していかなる保証もするものではありません。本サイトの利用によって何らかの損害が発生した場合でも、当事務所は一切の責任を負いません。
◆本サイト上に記載されている情報やURLは予告なしに変更、削除することがあります。情報の変更および削除によって何らかの損害が発生したとしても、当事務所は一切責任を負いません。
カテゴリー
月間アーカイブ
- 2024年11月(1)
- 2024年10月(1)
- 2024年9月(1)
- 2024年8月(1)
- 2024年7月(2)
- 2024年6月(2)
- 2024年5月(2)
- 2024年4月(1)
- 2024年3月(2)
- 2024年2月(2)
- 2024年1月(1)
- 2023年12月(1)
- 2023年10月(2)
- 2023年9月(2)
- 2023年8月(2)
- 2023年7月(2)
- 2023年5月(1)
- 2023年4月(2)
- 2023年3月(2)
- 2023年2月(2)
- 2023年1月(2)
- 2022年12月(3)
- 2022年11月(2)
- 2022年10月(1)
- 2022年9月(1)
- 2022年8月(2)
- 2022年7月(2)
- 2022年6月(1)
- 2022年5月(1)
- 2022年4月(1)
- 2022年3月(2)
- 2022年2月(1)
- 2022年1月(1)
- 2021年12月(1)
- 2021年11月(1)
- 2021年10月(2)
- 2021年9月(2)
- 2021年6月(1)
- 2021年4月(2)
- 2021年3月(1)
- 2021年1月(3)
- 2020年12月(3)
- 2020年11月(10)
- 2020年10月(5)
- 2020年9月(7)
- 2020年8月(4)
- 2020年7月(3)
- 2020年6月(3)
- 2020年5月(11)
- 2020年4月(5)
- 2020年3月(2)
- 2019年12月(1)
- 2019年9月(1)
- 2019年7月(2)
- 2019年6月(3)
- 2019年5月(2)
- 2019年4月(1)
- 2019年3月(3)
- 2019年2月(2)
- 2018年12月(1)
- 2018年10月(2)
- 2018年9月(1)
- 2018年7月(1)
- 2018年6月(1)
- 2018年5月(1)
- 2018年4月(1)
- 2018年3月(1)
- 2017年12月(1)
- 2017年11月(2)
- 2017年5月(1)
- 2017年3月(1)
- 2017年2月(2)
- 2016年12月(5)
- 2016年8月(2)
- 2016年7月(3)
- 2016年5月(1)
- 2016年4月(2)
- 2016年3月(4)
- 2016年2月(3)
- 2016年1月(1)
- 2015年11月(1)
- 2015年9月(1)
- 2015年8月(1)
- 2015年7月(1)
- 2015年6月(1)
- 2015年4月(1)
- 2015年3月(2)
- 2015年1月(3)
- 2014年9月(6)
- 2014年8月(3)
- 2014年6月(3)
- 2014年5月(3)
- 2014年4月(2)
- 2014年2月(2)
- 2014年1月(2)
- 2013年12月(5)
- 2013年11月(1)
- 2013年10月(5)
- 2013年9月(5)
- 2013年8月(2)
- 2013年7月(2)
- 2013年6月(4)
- 2013年5月(2)
- 2013年4月(3)
- 2013年3月(3)
- 2013年2月(2)
- 2013年1月(1)
- 2012年12月(2)
- 2012年11月(2)
- 2012年10月(1)
- 2012年9月(2)
- 2012年8月(2)
- 2012年7月(2)
- 2012年6月(2)
- 2012年5月(1)
- 2012年4月(2)
- 2012年2月(2)
- 2012年1月(3)
- 2011年12月(2)
- 2011年11月(3)
- 2011年10月(3)
- 2011年9月(8)
- 2011年8月(10)
- 2011年7月(8)
- 2011年6月(8)
- 2011年5月(10)
- 2011年4月(9)
- 2011年3月(9)