2024/01/16
法務情報
裁量労働制に関する法改正(弁護士:鈴木孝規)
1 はじめに
裁量労働制に関する省令等が改正され、令和6年4月1日から施行されることにより、同日以降、新たに裁量労働制を導入する場合、または裁量労働制を継続する場合には、新たな手続が必要になりました。
本コラムでは、主として裁量労働制の導入にあたって必要な手続に関する改正の概要等について説明したいと思います。
2 現在の裁量労働制の概要
裁量労働制は、ある一定の業務に従事する労働者について、実際の労働時間に関わらず、労使間で予め定めた時間労働したものとみなす制度のことです。
裁量労働制には、専門業務型裁量労働制と企画業務型裁量労働制の2種類があります。
⑴ 専門業務型裁量労働制
専門業務型裁量労働制とは、業務の性質上、その遂行の方法を大幅に当該業務に従事する労働者の裁量に委ねる必要があるため、業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をすることが困難なものとして定められた業務の中から、対象となる業務等を労使協定で定め、労働者を実際にその業務に就かせた場合、労使協定で予め定めた時間労働したものとみなす制度です。
現在の制度上では、専門業務型裁量労働制を導入するにあたっては、過半数労働組合または過半数代表者と、制度の対象となる業務や労働時間としてみなす時間等の一定の事項を定めた労使協定を締結したうえ、個別の労働契約や就業規則を整備するとともに、労働基準監督署に協定届を届け出る必要があります。
⑵ 企画業務型裁量労働制
企画業務型裁量労働制とは、事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査および分析の業務であって、業務の性質上、これを適切に遂行するには、その遂行の方法を大幅に労働者の裁量に委ねる必要があるため、業務遂行の手段や時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしないこととする業務等について労使委員会で決議し、労働基準監督署長に決議の届出を行い、労働者を実際にその業務に就かせた場合、労使委員会の決議であらかじめ定めた時間労働したものとみなす制度です。
現在の制度上、企画業務型裁量労働制を導入するにあたっては、まず、労使委員会を組織し、企画業務型裁量労働制の実施のために労使委員会で決議をします。
その後、個別の労働契約や就業規則等の整備をするとともに、労働基準監督署に決議届の届出を行い、また、労働者本人の同意を得る必要があります。
企画業務型裁量労働制を導入した企業は、労働基準監督署へ6か月以内ごとに1回、定期報告を行う必要があります。
3 改正の内容等
⑴ 専門業務型裁量労働制について
専門業務型裁量労働制については、改正により、労使協定に、労働者本人の同意を得ることや、同意をしなかった場合に不利益取扱いをしないことを定めることが必要となります。
労働者本人の同意は、対象労働者ごと、労使協定の有効期間ごとに得ることが必要とされています。
また、労使協定に、同意の撤回の手続と、同意とその撤回に関する記録を保存することについても定めることが必要となります。
同意の撤回の手続は、同意を撤回する場合の申出先(部署や担当者)、申出方法等の具体的な内容を定めることとされています。
⑵ 企画業務型裁量労働制について
企画業務型裁量労働制についても、改正により、労使委員会の決議に、同意の撤回の手続と、同意とその撤回に関する記録を保存することについても定める必要があります。
また、労使委員会の決議に、対象労働者に適用される賃金・評価制度を変更する場合に、労使委員会に変更内容の説明を行うことを定める必要があります。
労使委員会の運営規程には、対象労働者に適用される賃金・評価制度の内容についての使用者から労使委員会に対する説明に関する事項(説明を事前に行うことや説明項目など)、労使員会の開催頻度を6か月以内ごとに1回とすることを定めることが必要となります。
労働基準監督署への定期報告の頻度も変更となり、初回は労使委員会の決議の有効期間の始期から6か月以内、その後は1年以内ごとに1回となります。
4 おわりに
今回の改正では、すでに裁量労働制を導入している企業が、令和6年4月1日以降も継続する場合、令和6年3月31日までに協定等を改正にあわせて修正等するなど必要な対応をしておかなければなりません。
裁量労働制を導入している企業については、改正の内容を踏まえて、早期に対応しておくとよいでしょう。
また、裁量労働制の導入を検討されている企業については、改正の内容を踏まえて、適切に制度設計をしたうえで導入することが必要となります。
_________
[参考]
厚生労働省「裁量労働制の導入・継続には新たな手続が必要です」
厚生労働省「専門業務型裁量労働制の解説」
厚生労働省「企画業務型裁量労働制の解説」
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